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第17話 可愛い嫉妬

 やはり、大人は偉大だ。一歳時の紅葉のような手では、溝も深く掘れないのに母の手にかかれば、ぎりぎりと何度かなぞればあっという間に出来上がる。しかも、達筆で鶏さんと比べると雲泥の出来だ。ここ数日の苦労を思い出し、少し凹む。ぽんぽんと肩を叩かれ振り向くと、フェリルとジェシがキラキラとした目でこちらを見ているが、新しい遊びではない。だめ、期待しても何も出ない。

 こりこりと真剣な表情で繊維を潰して文字を刻み、出来上がるとにぱっと良い顔をして笑うので、ほへぇと三人で眺めてしまう。


「なーに?」


 母が、無心で眺めている三人に気付いたのか、鉄筆を置き、椅子の上で前のめりになる。


「まま、きれい」


 私がそう言うと、フェリルとジェシもぶんぶんと同意する。すると、ぱっと紅潮したかと思うと、机に突っ伏して恥ずかしそうにする母の姿。


「可愛いわね、本当に」


 暫くもぞもぞとしていた母が、持ち直したのか、皆の頭を撫でて、遊びに行っておいでと言うので、私は連行される宇宙人みたいな姿で、フェリルとジェシに引きずられていく。やめてー、まだ腕が弱いの脱臼しちゃう。文字を覚えておぼろげながら会話が分かってくると大人の真似をしたくなるのか、一歳児にも関わらずままごとを強制される。ちなみに私のパパ役は確定で、ママ役をどちらがするか鎬を削っていたが、最終的に子供役と交代と言う事で落ち着いていた。うん、機会の平等大事。

 流石に三歳のウェルシはもう一人で授業をこなしている。初めて会った時は子供子供していたが、今では立派なお姉さんだ。子供達がだれて喧嘩を始めても仲裁に入り、女神のような微笑みで仲直りさせている。教育は人を成長させるのだなと感動していると、無造作に差し出される泥団子。


「ん!!」


 ママ役のフェリルからドスの効いた圧力。助けを求めるようにジェシの方を見つめるが同じように冷ややかな瞳。あれぇ、一歳児でも嫉妬とかあるんだ……。そう思いながら泥団子を美味しそうにパクつくさまをダイナミックに表現してみた。


「出来た!!」


 母の声が聞こえたので、ままごとという拘束から抜け出し、母の元に向かう。そこには炭で下書きをした分全てを刻んだ木片がじゃらじゃらと置かれていた。


「まま、すごい」


 目をキラキラさせて言ってみると、頬をむにむにとされて抱きしめられる。


「後は自分で出来る?」


「あい!!」


 母が袋に木片を詰めてくれたので、三人で手分けして炭を崩して木片の溝を埋めていく。鶏の経験から楽しそうだと気付いた二人も単純作業なのに、飽きもせず付き合ってくれる。


「かんせいー」


 きゅっきゅと最後の一片を磨き終えて、安堵の溜息を吐く。


「ふぉぉ。こえなに、こえなに!!」


 取り敢えずの完成の余韻に浸りたいなと思っていたが、二人にとってはここからが本番と言う事で、目についた木片を拾い上げては質問をされる事態に即シフトしたので少ししょんぼりした。余韻、大事。

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