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第150話 恋愛事情

 活況の中夜を迎えた収穫祭は尚も熱気を帯びている。

 管楽器や太鼓の音がムーディーな音色を流し、広場に設営されたキャンプファイヤーの周囲では男女の親密に語らう姿が見られるようになった。


「ふわぁぁ……」


 先程までちょっとテンションが上がった感じのヴェーチィーであったが、年齢的に眠気に勝てないのか頻りに欠伸を繰り返す。


「もどるの」


 私が告げるとふるふると首を振るが、ふぃっと目線を上げた先に幼馴染ーズとアリゼシアが寝入ってお母さん方に背負われ家に戻る姿を見たら陥落した。

 手をつないで一緒に家に戻り、父と母にヴェーチィーの事を告げる。

 王家に関わる話である。

 結構大きな問題なのではと思っていたが、すんなりと許可が下りる。


「ヴェーチィー、頑張っていたから」


 とは、母の言である。

 それを聞いた瞬間、赤面して俯いたヴェーチィーは中々の見物であった。


「そうなる気がしていたからね。でも、これからが大変だよ?」


 父は子供のいつのまにか成長していた姿を喜ぶように、そっと頭を撫でてくれる。


「陛下には伝えておくね」


 そう告げると、父は再び祭りの渦中へと戻っていった。

 主役がいないと白けるという事で、今日は夜通し飲みっぱなしのパーリーナイだ。

 母は少し呆れ混じりの表情を浮かべながら見送り、そっとヴェーチィーを抱きしめる。


「望みが適って良かったね」


 その言葉に、目を見開いたヴェーチィーはごしごしと目元を擦り、きゅっと抱きしめ返した。


「のぞみ?」


 私が問うと、母がめっと瞳で釘を刺し、ヴェーチィーをいいこいいこする。


「女の子には女の子の秘密があるのよ」


 そう言って、ヴェーチィーを連れて寝室に向かった。

 私は釈然としないものを感じながら自室に戻り、そっとラーシーの待つ布団に潜り込む。

 窓からは喧騒が遠く響き、ふわと欠伸が催してきたころには夢現のどちらか分からなくなっていた。



「およめしゃん……」


「ずるいの!!」


 次の日、訪問してきた幼馴染ーズに早速ヴェーチィーが報告したらしい。

 朝起きて、食事を終えてベティアの世話をしている最中に、団子のようになって二人が飛び込んできた。


「ふたりのこともかんがえているから」


 私がそう告げると、途端に頬を染めて、いやんいやんと頬を押さえながらくねくねしはじめる。


「およめしゃん……!!」


「ふぉ……。すごいの!!」


 フェリルはぐへへとにやにや笑いながら藁をぷちぷち毟っているし、ジェシはぽけーっと何かを夢想したまま返ってこない。

 そんな中、二人の後ろに控えていたアリゼシアがムンクの叫びのような表情をしているのに気付く。


「どうしたの?」


 私が何も気づかない振りで問うてみると、ぷいっと横を向きむくれた表情で口を開く。


「何でもないです」


 アリゼシアの好意なんて気づかなかったけど、何に惹かれたのだろう。

 幼馴染ーズに当てられているだけなのかなとも思いつつ、言葉を紡ぐ。


「アリゼシアのこともかんがえているの」


 私が告げると、はっと目を見開き、途端にもじもじし始める。

 父親を口説く方が難しそうだけど、その辺りは王様に頑張ってもらおうと、他力本願な事を考える。

 義父になるんだしなと責任転嫁しながらかしゅかしゅとベティアの背中をブラシで擦ると、ぷるぷるっと首を振ったベティアが嬉しそうに嘶いた。



 という訳で、王都は騒然とした。

 父の書状が届いた段階で、王様は早速ヴェーチィーの去就を国中に触れとして出した。

 数多の人間がそのお触れを慶事として喜ぶ中、喜べない人間と言うのも存在していた。

 ヴェーチィーが父に懸想していたのはある程度の地位を持っている人間は知っている。

 最近富に裕福になっており、かつ王の覚えめでたい父に付いた重り。

 ヴェーチィーがうちの家庭環境を掻きまわしているだろうとほくそ笑んでいた人々である。

 蓋を開けてみればびっくり、その息子とくっついたと言う。

 となると、父は外戚という扱いになる。

 本来なら父の勢いを削ぐという筈の手が父の権勢を支える形になっている。

 これはどうすればいいものかと、有力者達は頭を抱えているようだ。


 勿論、父はそういう意見が出る事は見越して書状に追記している。

 お家事情でヴェーチィーの継承権に関しては特に口出しはしない。

 ただ私が将来結婚するにせよ、外戚として政治に関わるつもりはないと。

 現状でも手一杯なのに、これ以上王様に好きにこき使われないための布石だったのだろう。

 それでも、王様からは感謝の旨とヴェーチィーへの祝いの言葉が返ってきたので、喜んでいるのだろう。


 そんな四歳児とは思えない、面倒な恋愛事情をこなしながら、私は剣を振るう。

 まだ訓練には早いのだが、剣を授けた手前もあり、将来を誓った人間もいるという事で、父が稽古をつけてくれるようになった。


 ちょっとだけ大人として認められたようで嬉しいのは内緒だ。

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