第148話 献上
献上品を厳重に包んで、家に持ち帰ってみる。
自室に戻り、実際に落ち着いた場所で見てみると茶味が強い。
琉球の生地である紅型の黄色の濃い感じと言えば伝わるだろうか。
黄色よりの茶色と言うには紅に近いが、これ以上は今の材料では難しいだろう。
そんな事を考えながら、父の元に向かう。
「こくおうさまのけんじょうひんがやけたの。どうかなぁ?」
取りあえず自信満々の表情で差し出してみる。
これで駄目なら、大分後回しになるなと思いながらハラハラしていると、父がこくりと頷きそっと手に取る。
「大丈夫。良く出来ている。頑張ったね」
私がハラハラしているのを感じ取っているのか、安心させるかのようにぽふぽふと頭を撫でて、そっと器を机に乗せる。
「器の感じは大分変ったね。窯の方はどうだい?」
大規模な窯を使う事によって、温度が安定したせいか、同じ釉薬でも貫入が入るものと入らないものが出てきた。
それに初回という事で、上の窯の方の温度管理それも温度低下の時が甘かったのか、半分以上が割れるか欠けるかしているのも問題だ。
三百強の器を焼いて、二百弱しか成功しなかったのは反省点だなと思う。
ただ、その数を伝えると父の絶句が返る。
「数の桁が変わったね」
「まきをつかうりょうもぜんたいでみればへるの。かまのおかげなの」
「新しい住人は大丈夫そうかな?」
「おっかなびっくりさぎょうしているけど、おっつけなれるの。いまはかずをこなしてもらうのがだいじなの」
「そうか……」
ふむと頷いた父が羊皮紙を一枚手渡してくる。
そこには陶器の器の販売計画が書かれていたが、父にしては強気な値段が記載されている。
「これでかいてがつくの?」
「輸送の手間を考えれば、このくらいを負担してもらわないと割に合わなくなりそうだからね」
そう告げられて、今の荷車の性能を鑑みて、妥当だと判断する。
献上品や贈答品ならさておき、普及帯の商品まで厳重に梱包していたら資材の方が足りなくなる。
「とりにきてもらえたらいいのに」
私が冗談でそう言うと、父がむむむと本気の表情で唸り出したので、慌てて取りなす。
防諜を考えないといけないのに、そんな機会を態々他者に渡す意味は無いなと諦める。
「じゃあ、ママにたのんでこんぽうするの!!」
そう告げて、器を大事に抱え、執務拠点を後にした。
王妃用の物と同じく厳重に梱包された器は無事王都に到着した。
梱包用に使った布は茶色で染め上げた物だ。
今回は父が態々護衛として付いての納品となった。
久方ぶりの訪問と前回の書状の件もあってか、王様も上機嫌で謁見したようだ。
手ずから梱包された箱を受け取るというサービスまで披露してくれたらしい。
開けた段階で周囲に見せびらかしたのはサービスなのか本心なのかは謎だが。
今回の献上分で更に恩賞が出るという事なので、改めて温めていた計画を実行する事にしようと思う。
ついでに父も生産の余剰分が発生していると周囲に伝えたようなので、初回に焼いた分は十分に捌けそうだ。
王様からは、余剰があるくらいなら王家で買い取るという話も出たようだけど、あまり独占するといらない恨みを買うと伝えると残念そうな表情で諦めたみたい。
出来の良いものを選りすぐって持ってくると伝えると機嫌が直ったので、問題無いかと思う。
そんなこんなで、父が戻ってきた時には、荷馬車が列を成して付いてきていた。
各地のレフェショやレフェショヴェーダの依頼分の回収部隊だそうだ。
乗っている資材や金品を受け取り、在庫を渡すと厳重に仕舞って帰っていく。
結局、四歳の夏はろくろを回すか、依頼分を受け渡すかで終わってしまった。
暖かい間に出来れば新しい釉薬の素材を探したかったが、そんな暇は皆無だった。
ちなみに頑張って暇を見つけてはベティアの世話をしている。
母曰く、幼馴染ーズにベティアの世話を任せたのは私を発奮させるためだと後で聞いた。
結局母の手のひらの上で転がされていただけかと思ったが、ベティアの機嫌が直ったので万々歳だ。
忙しい日々は飛ぶように過ぎていき、風に爽やかなものを感じる季節が巡ってきた。
日々の移り変わりは目に見えないけど、改めて感じてみれば時は進んでいる。
収穫も終わり、緩んだ空気が流れる中、収穫祭の時期がやってきた。




