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第143話 赤い川

 萌えるような草原。

 黄緑の若芽が柔らかくそよぐ海原のような中をベティアと共に駆ける。

 川の支流を見つければ降りて近づき、荒い息を吐くベティアの任せるままに飲み干させる。

 はむ、はむりと美味しそうに草を食みながら時折耳をこちらに向けてくるベティアが可愛らしい。

 と言うのも、日課の遠乗りに出る前、一悶着があったからだ。


 フェリルがいきものがかりになったのだが、どうもベティアのお世話をジェシと一緒にやっているようなのだ。

 幼馴染ーズの家にだって馬はいるが、どちらも家の馬という事でお世話は家族がやってしまう。

 馬好きな二人としては物足りないので、ベティアに白羽の矢が立った。

 もし何かあったら危ないと、ベティアには二人に慣れるように教育をしたので、近づいても危険はない。

 それを良い事に、こっそりとお世話をしている節が見え隠れしていた。

 いつの間にか補充されている水桶や飼い葉桶。

 そして、妙に身綺麗で機嫌の良いベティア。

 黙ってても勝手にお世話をしてくれる妖精さんはいないので、すぐに二人の仕業だろうなというのは分かった。

 色々と開発の手前、世話が杜撰になりかけている部分もあったので、反省を含めてありがたいとは思っていた。


 ただ、今日遠乗りに出ようとした際にベティアが執拗に寂しそうな素振りを見せるのだ。

 最初は何を意味しているのか分からなかったのだが、どうも幼馴染ーズが過剰に世話を焼くので、私が中々会いに来ないのではないかと思ったようだった。

 その瞬間に感じたショックは相当なものだった。

 父からは口が酸っぱくなるほどに、人間の伴侶より大切にしろと言われていた意味がようやく理解出来た。

 これからは幼馴染ーズによるお世話は控えてもらうようにしないと駄目だし、私ももっと気合を入れて世話をしないといけないなと。

 そう心に決めて、頬ずりしてくるベティアに頬ずりで答えたのだった。



 誕生日を迎えた私は、早速陶芸に関しての開発に着手した。

 父とも相談したのだが、恩賞が届き正式に予算を計上する事を許されたので、計画の発進となった。


 まずは運用を想定した全体の計画に関してを決めていく。

 立地に関しては、炭窯もそうだが村の本体と離しておかないと延焼が起こるような場所では危険だ。

 かと言って、利便性が無い場所には作られない。

 という訳で、ろう石鉱床の丘に登り窯を建てるのは確定。

 そこに、陶芸用の施設を建てると共に倉庫も併設する。

 陶芸職人はそこに住んで、陶器製作と作品の保管を司る。

 勿論、護衛は必要だし、緊急用の対処も必要だ。

 なので、兵の増員を王都に打診し、村専属になってもらう形で進めている。

 ちなみに、三日交代くらいで食料などの物資を運んでもらう運用を想定している。


 窯の仕様は基本的な連房式登窯に決めた。

 割竹式や蛇窯などにも心が動いたが、芸術性よりも同じ物を量産する生産性を重視するという事で断腸の思いで決定した。

 それに要件定義と設計が比較的容易なので、もし何か問題が起こっても対処がし易い利点がある。


 粘土は現地で調達が可能なので、それを使う。

 釉薬に関してだが、正直初めの頃は私が調合するしかない。

 水車を量産出来れば良いのだが、そこまでの予算は付いていないので、村で調合したものを使ってもらう形になる。

 防諜上も、その方が良いかなと判断する。

 将来的には、本当の意味での陶芸家が誕生して、自分で創意工夫をしてくれるようになるとありがたいなと考えるのだが。



 と、決めるべき事を決めた私は、その観点で現地に視察として赴いた。

 王都への街道からは、そう遠くない上に川も比較的近い。

 輸送には道を新たに通さないといけないが、序盤は隠し村のように運用しよう。

 川が近いため火事の時は安心だし、将来は水車の設営も視野に入れられる。

 もっと先の未来としては、鍛冶を含め各種工房をここに集めて、工房街として運用させるのも良いかもしれないなと。

 生活密着のちょっとした作業は村の中の炉で対応して、大規模生産に関しては工房街の方で対処する。

 何にせよ井戸を掘らないと駄目だなと、心の中にメモを残した。


 そんな事を考えながらヴェーチィーや兵の人と一緒に丘を巡る。

 そろそろ戻る時間という事で、最後に馬に水を飲ませて一気に戻ろうと川辺に出る。

 近い事は分かっていたが、実際に近づいた事は無かったので良い機会だと思ったのだが……。


「赤い……」


 ヴェーチィーが絶句したように呟く。

 せせらぐ流れは美しいのだが、川の底が赤く染まっている。

 私は慌てて履き物を脱ぎ、川に飛び込む。

 足で石を抓み、目の前に翳した瞬間、私は笑いを押さえる事が出来なかった。


「どうしたの? 何があったの?」


 慌てたように同じように追ってきたヴェーチーを抱きしめ、私は叫ぶ。


「みつけたの!! こんなちかくにあったの!!」


 喜びのあまり、ヴェーチーを持ち上げようとして、重さに耐えきれず二人揃ってばしゃんと川にダイブしたのは黒歴史だ。

 焚火で服が乾くまで帰られなかったし、帰ってからも暫くヴェーチィーが不機嫌で口もきいてくれなかったからだ。


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