第141話 勅許
ベベレジアへ親書を輸送していた国軍の人に試作一号達を渡す。
輸送用の荷車を引きながらの旅なので、麦殻を詰めた小さな箱を特別に作って保護した。
お母さん方の力作の布を火熨斗で伸ばした特別品で包み、豪勢にラッピングしたナイスな逸品だ。
毒を食らわば皿までと、現在投入出来るだけの贅を凝らして作り上げてやった。
「ふぉぉ……」
荷馬車がごとごとお皿を乗せていく。
可愛いお皿が貰われていくのを悲しい目をしながら見送る羽目になった。
まぁ、いつまでもテンションを下げてても仕方ないので、試作二号以降を作るべく材料を集めるべく、奔走する事にした。
と、私がわちゃわちゃと幼馴染ーズの誕生日をどうするか考えながら陶器の事を並行して作業している間の事だった。
どうも王都では緋皿がセンセーショナルなデビューを飾っていたらしい。
腹心の家臣ぱぱんの献上品という事で、開けてびっくり。
中には王妃殿下のシンボルカラーな見た事も無い器がででんと鎮座していた。
添え書きには新しい産業を興したいけど、やっぱり初物は上司に献上するのが筋だよね?
偶には王妃様のご機嫌も取っとかないと、王様ばっかりじゃ愛想をつかされるかもね?
でも最近国のために色々馳走しているけど、その辺りいかがなものかしら?
と本音はそんな感じで、建前ばりばりな政治的文章が書かれていたらしい。
器を見た王様びっくり。
添え書きを見た王様二度びっくり。
しかも王妃様もラッピングはもとより、器を超気に入って、片時も手放さないくらいの勢い。
三度びっくりという事で、このままではいかんと人を集めたらしい。
ヴェーチィーに関わる諸問題の解決。
車輪の開発による輸送力の向上。
戦争に関する戦功と軍の輜重支援。
アリゼシアに関わる諸問題の解決。
その上、今回の上質な布に器である。
これは借りが溜まり過ぎたと、四苦八苦して周囲を宥めすかしたらしい。
「ふぉ? ちょっきょ?」
「そう。書状が届いていたよ」
粘土をこねこね創作活動をしていると、珍しく父の方から部屋に訪れた。
詳しく話を聞いてみると、火熨斗と釉薬付きの陶器は勅許が得られたらしい。
勅許の利点は二点。
今後、うちが生産する火熨斗とアイロンがけした布を売る時は御用達の免状が掲げられて税が軽減される事。
これに関しては、副次的に箔が付く事も上げられる。
そして同様の物産を他者が生産する際に、うちにお伺いを立てないといけない事。
商業的に見た場合、莫大な利点が上げられる。
正直布なんてどこでも生産出来るものなので、御用達の差がつけられるのはありがたい。
それに織機で大量生産しているものが高値で売れるなんてうはうはだ。
そして陶器に関してだが、原価で考えれば粘土と燃料くらいなものだ。
そんなものを作るに当たって、うちの許諾が必要になる。
コネ作りにはもってこいというものだ。
で、こんな利権をゲットするとなったら、有象無象の妨害が発生するというのが世の常だ。
レフェショだろうが、レフェショヴェーダだろうが、欲得というものからは逃れられないし、嫉妬の心もある。
父への妬みで色々と足を引っ張りかねない勢力も、今回ばかりは王様肝いりという事で手出し出来なかったらしい。
この辺りは政治と王家を知っている父の独壇場で、私では対応出来なかった部分だ。
正直、自分で使ってて不敬とか言われるのが関の山だっただろう。
もしくは、ヴェーチィー辺りからそれとなく教えられたかもしれない。
結果として万々歳な結末を迎えた。
「ふぉぉ……。おおあきないなの」
「そうだね。ただ、村の生産力を考えるとね……。布はまだしも……」
そうなのである。
布は大量生産が効く。
でも、陶器はまだまだ始まったばかりだ。
窯の手配すら出来ていない。
それなのに、王様。
人を集めた際に、今回の陶器を大々的にお披露目したらしく、誰もが魅了されちゃったらしい。
献上品としても最高、贈答用にもよし、何より自分で使いたいという事で、わんさか聞いた事も無いようなところからも書状が届いている有様らしい。
王様は王様で、もっと欲しいという王妃様の要望はもとより。
自分のパーソナルカラーのやつを開発して欲しいだとか、王孫用はマダー? と、やんわり催促が入った書状を送って来たみたいだ。
「ふぇぇ……。きいろとかだいだいいろとか、むずかしいの」
黄色を出すには雑木でも鉄分の多い木灰を探さないといけない。
それに、鬼板と呼ばれる褐鉄鉱や黄土も探す必要がある。
鬼板は鉄泉、有馬のお風呂の湯船が茶色や黄色に固まっているのをイメージすると分かりやすい。
川を漁れば出てくるだろうけど、まだまだ寒いのにそんな無理はしたくない。
「今回は特別に恩賞も多めに出ているから窯の開発費用は捻出出来るね」
その言葉にぴこーんっと機嫌が直る。
献上の利点は朝貢貿易と同じ。
渡した物の対価以上の恩賞が贈られる。
今回は今までの無茶ぶりも兼ねて、どばっと大放出してくれたらしい。
「ふむぅ。がんばるの!!」
金に糸目をつけないとなると、話は別だ。
早速セーファのところに走り出そうとした私の襟を父が掴む。
「これはどうするんだい?」
「あ……」
机の上には前衛芸術的なオブジェみたいな粘土の塊が鎮座している。
慌てて片付け始めた私を横目に、はぁと溜息を吐く父であった。




