第14話 幼児番組の手法です
「木が欲しい? 何に使うのかしら?」
夕ご飯を食べて、歯磨きをしてもらって、寝かしつけのタイミングで母におねだりをしてみた。
「じのれんしゅう、したい」
「字の練習? まだまだ早いわよ」
母は笑ってくりくりと顔を頭に擦り付けてくるが、私もそれで騙される訳にはいかない。
「みんなであそぶ!!」
きっと凛とした顔つきで真剣な眼差しと思う表情に変えて、珍しく駄々をこねてみると、母もうーんと思案顔になった。
「薪で良いのかしら。でも、とげが刺さって危ないわよ?」
「ちいさいのがいい。かけるの」
「積み木みたいな物かしら……。良いわ、ディーと相談するわね」
そう言って慈しむ顔で頭を撫でてくれる母に、むふーっと嬉しそうな顔を向け、その日は眠りに就いた。
「皆で遊ぶのか……。そんなに大量じゃなければ良いんじゃないのか?」
次の日の朝、食事が終わると母が父に相談してくれた。父も色々と周囲から遊具を貰って子供達に供している手前、何かの手は打ちたかったらしい。村長として、子供達に贈る物を考えている矢先だったので、話に乗ってくれた。ちなみに、薪は周囲の森から少しずつ切り出して使っているらしく、それなりに貴重だ。積み木も薪に向かない木を使って作られるくらいだ。勿論今回も、薪以外の端材で問題無い。
「でも、文字を覚えるだなんて……。まだまだ早いと思うのだけど……」
母が心配そうに呟くと、そっと父が抱きしめる。
「ティンのお父さんも勉強家だったと言うじゃないか。それだけ立派な人には教養が必要だ。私はその辺り弱いからな。ティンの血を濃く継いでいるのだろう」
そんな囁きを耳元でするから、朝から艶めかしい雰囲気になっている。子供には分からないだろうと思っても、母のキラキラした目を見ていれば分かる。はぁと心の中で嘆息しながら、目的が果たせそうだと、少しだけ肩を撫でおろした。
「なーするの?」
ぽかぽか太陽に照らされながら、貰った木片をくるくると見ながら何をどうやって作ろうと思っていると、背後から声が聞こえる。
「おはよう、フェリル、ジェシ」
声をかけると、ちょっとはにかんだように二人が微笑む。どうも、昨日注意されたのが堪えたのか、かなり大人しい。ありがたかったので、良い子良い子と撫でると、尚上機嫌になる。
「き?」
ジェシが足元に散らばった木片を積み木だと思ったのか、積み上げ始めるが、そうではない。
「べんきょうどうぐ?」
と首を傾げながら答えると、二人がぴしっと固まって、じりじりと後退し始める。
「べむきょー、やーなの!!」
そういうと、ててーっと二人して去っていく。余程家で勉強って言われているのかなと、呆気に取られながら見送る。
「それで足りるかしら?」
ぽてんぽてんと袋の中から端材を地面に落として、母が言う。まずは二十三の文字とアクセント記号を覚えるだけだから、これで問題無い。薪ではなく、建築用の端材なので板状になっているのも助かる。重ねてお願いしていた、竈の燃え残りの炭を使って板に文字を書いていく。
「あら、綺麗な字。ちゃんと書けるのね」
母の言葉に、こくりと元気いっぱい頷く。
「いっぱい、パパのへやでみた。パパすごい」
おだててみると、やだっみたいな感じで母が照れていたので、ちょろい。これで怪しまれる事は無い。と言う訳で、文字を書いて、大声で発音を繰り返す。すると、なんだなんだという感じで周りの子供達がわらわらと寄ってくる。
「これ、イー」
と札を見せながら叫ぶと、皆が楽し気にイーっと叫ぶ。
「これ、ワー」
なんというか幼児番組のお兄さんの気分だ。遊びのようにやっていると、子供達が興味深そうに後に続くので、どんどんと札の発音を教えていく。
「これはなーんだ?」
一通り発音を覚えるまで繰り返し、今度は札だけを出す。皆が顔を向き合わせ考え込む中、ウェルシが元気よく答える。正解者と言う事で、とことこと近付いて頭を撫でると、嬉しそうな表情になるし、皆もぱぁっと明るい表情を浮かべる。
「じゃあ、つぎは、これー!!」
そんな感じで、札当てゲームは夕方まで続き、お母さん方は今日大人しかったわねと噂する程度で一日目は終わった。




