第136話 鳥が飼いたい
「ふぉ、またなの!!」
「ふぉ、ふえたの」
幼馴染ーズをはじめとした子供達は初めて見るちょっと大きな女の子に興味津々だ。
幼馴染ーズはちょっと毛色が違って、しゃーっと威嚇している。
でも、小一時間も放っておいたら仲良く遊んでいるので、子供の順応性は高い。
やはりアリゼシアがすれていないというのも大きいと思う。
「あっちにいく!!」
「いしなげるの!! びゅーってとぶの!!」
危ない事には釘を刺さないといけない。
「このむらがるけいちみたいになっているの」
子供達の行動を観察しつつ、アリゼシアの様子を見に来ていた父に語り掛ける。
「難しい言葉が出てきたね。まぁ、厳密に罪を犯した人間はいないけど、言っている事は分かるよ」
苦笑しながら父が告げる。
「ヴェーチィーもティーダと出会って随分と大人になった。アリゼシアも当人としてはまともな子だね。周囲は色々自分が信じたい事で物を見るから」
強いて言えば、リグヴェーダの反王家派にとっては、お気に入りの父に色々負荷が乗っているのは望ましい事らしい。
父の身動きが取れ無くなれば、それを右腕としている王の手が伸びにくくなるという発想だろう。
それに流刑地に娘を送り込まれれば、ベベレジアに不穏の種を撒けると考えるのだろう。
「実際は別途親書を送って、内実は伝えている。まだ返書は届いていないだろうけど、問題は無いと思うよ」
王が頼りにしている人間が育てるのだから、向こうとしても言う事は無いだろう。
元気よく、子供らしい笑顔を浮かべながら庭を駆け回るアリゼシアと子供達を見つめ、ほっと笑顔が零れた。
火熨斗の開発と運用方針を決めた私は残りの実施の部分を虎おっさんと父に投げて村をてちてちうろつく。
実際に密に織った布をアイロンしたものは、ぴんと美しく、十分に付加価値になろうと思わせるものだった。
後は炭と火熨斗の生産と広告をどうするかなので、父の方が相応しい。
取りあえず高級品志向で王家辺りを顧客にして、他のレフェショヴェーダやレフェショ辺りに売っていくのが良いと思う。
と、一仕事終えた私は次の特産品のために村を見回っている。
春の芽吹きの淡い緑色が村を彩る中、寒さから解放されたファニュ達が各家の庭をちょろちょろひゃふひゃふ走り回っている。
どの家も結構広めの庭を設けているのだけど、家庭菜園などはあまりしていない。
一部ハーブを植えて、お茶として楽しむ感じだろうか。
農作業は、畑の方でがっつりするので、家でまでは見向きもしないようだ。
そこでふむと考える。
この手の構造なら、何か生き物を飼うというのも良いかもしれない。
ファニュだけだと勿体無い。
小さな家畜。
家で飼えるもの。
と言えば、やっぱり鶏だろう。
朝やかましいのはあるが、卵と肉は魅力だ。
王都で卵料理があったのは覚えているので、ある程度手法も確立されているのだろう。
善は急げと、詳細を聞きに家に走る。
「鳥? そうね飼っているわ」
ヴェーチィーと一緒に掃除をしていた母に尋ねると、うーんと考えた後に答えてくれる。
「むらでかえない? りょうりにはばができるの」
私の言葉に、難しい表情を浮かべる母。
「あのね。鳥は結構難しいのよ?」
糞の問題や、鳴き声の問題はある程度分かっている。
病気もあるだろうが、そんなに数を飼わなければ大丈夫だろう。
ふんすっと母の言葉を待っていた私に、思いもよらない言葉を告げてきた。
「凶暴なの」
くてんと首を傾げた私に、母が教えてくれる。
どうも鶏の亜種みたいな地面を主に移動する鳥は存在しているし、卵も産むらしい。
でも、軍鶏とかよりも凶暴で、脚の筋肉も発達しており、中々飼うのが難しいとの事だ。
風切り羽を切っていても、飛びあがると三メートルくらいは軽々超えていく。
しかも蹴爪がまた発達しており、思わぬ大怪我を負う事もあるそうだ。
「専門の飼育の人が極少数を飼っているだけね」
王城の料理で出たのは、そんな貴重な卵と肉だったようだ。
「そもそも他の生き物を嫌うから、ファニュが近づいていくと蹴られちゃうわ」
そう言われると、むむむと言葉を失う。
野生を失ったファニュでは、荒々しい野生には勝てそうもない。
一縷の望みをかけて、ラーシーをがおーっと野生風味で追い立ててみたが、新しい遊びと思ったのかひゃふひゃふとじゃれついてくる有様だった。
そんながおー姿をヴェーチィーに見られていて、冷やかされるのはまた別の話だ。




