表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/151

第130話 炭が出来ました

 煙が絶え、数日して焚口を壊す。

 真っ暗な窯の中に蝋燭を差し込み、十分な酸素が流入したのを確認する。

 天井を見上げると、黒く煤けているが、かっちりと焼成されていた。


「せいこうなの」


 てちてちと焚口から布を顔に巻いた姿で出てくると、ぶふっと熊おっさんの笑い。

 何がと思いながら手を見ると、気付かず真っ黒になっていた。

 きっと、顔を拭ったから顔も真っ黒なのだろう。


「わらってないの。はいをかきだして、すみざいをいれるの!!」


 きりっと告げると、熊おっさんの指示の下、作業が進む。

 窯の中を隙間無く炭材が埋めたのを確認し、焚口に障壁を作る。

 この際に、若干の隙間を開けるのが味噌だ。

 焚口の前に火口をレンガで組んで、火を入れる。

 ここからは夜を徹しての作業だ。


「こうたいでおねがいします」


 並行して建てていた炭小屋に、村の若い子が入る。

 火口の火を絶やさず、炭窯の中を延々蒸し焼きにする必要がある。

 寝ずの番になるが、冬場の仕事が無い中での高収入なので、やる気は十分だ。


 ゆらゆらと揺れるように炎を上げる火口を眺めて、どうか無事炭が出来ますようにと神に祈る。


 最初の二、三日は白い煙が延々煙突から噴き出していたが、三日目を過ぎ、四日目になった頃に煙が上がらなくなった。


「ひをけすの。うめるの!!」


 窯の口を塞ぎ、排煙口も塞ぐ。この状態で、窯の中が冷えるまで待つ。

 窯の周りのほんわか温かゾーンでは雪も積もらなかったが、窯が冷えるにつれて徐々に積もり出す。


 もう十分と判断し、焚口を崩して、開けてみると、白い灰に塗された炭が所狭しと並んでいた。

 叩き合うと、チンチンと高い音を上げる程の極上品。

 熊おっさんを見つめてにやっと笑うと、にやっと返ってくる。


「さぁ、運び出して次だ、次!!」


 熊おっさんの号令で、炭と灰の運び出し、そして次の炭焼きの準備が始まった。


 木酢液の生産は順調だ。今回も大量に取れたので、各家庭に分けても余る。

 冬のあかぎれ対策に、湯に入れて手足を浸けるのを推奨した。

 それに、冬温かい家の中には有象無象の虫が入ってくる。その経路に撒いていると害虫も入ってこないので安全だ。

 炭は元より、灰にも利用価値がある。火鉢に使うのもそうだが、土壌改良用の肥料もそうだし、炭俵の緩衝材にも使う。

 台所洗剤にも使えるし、雪の上に撒いておけば融雪剤にもなる。


「みち!!」


「あるける!!」


 雪が積もってから、雪かきに明け暮れていたが、灰を撒いて日に晒すと太陽光の熱で雪が融けると知り、皆が真似をし出した。

 子供達が、遊びの延長で灰を撒いている姿をよく見かけるようになった。


 炭に関しては、どんどん兵の人に渡す。北方はかなりの寒さらしく、少しでも暖を求めているらしい。

 炭窯ですら飽和しかねない勢いで、炭の発注が入る。勿論これまで炭を交易していた村や遊牧民からもせっつかれる。


 という訳で、今年の炭小屋は中々の重労働となった。

 それでも、冬場のまともな仕事などほとんど無いし、現金収入が入るという事で、引く手数多だった。


「ふへぇ……」


 炭の出荷のピークを何とか無事に乗り切り、久々の休みという事で、庭にぽてっと座って休憩する。

 周囲では、雪合戦やかまくら作りが盛んにおこなわれ、庭はぼこぼこになっている。


 横では、フェリルとジェシがくっついてぬくぬくしている。


「あそばないの?」


「ふぉ、ぬくーの!!」


「いっちょ、いる!!」


 最近また忙しくて、構わなかったのが原因か、横を離れない。


 と、お母さん方の井戸端会議からふと話題が聞こえてくる。

 兵の噂によると、ベベレジアの方は今年もかなりの冷え込みらしく、予定していた賠償金に遅れが出そうらしい。

 その見返りというか、謝意を籠めて、ベベレジアの王女が人質として送られてくるという話だ。


 となると、うちの村に寄るのかなと、面倒事が起きなければ良いなと。

 大岡裁きのように左右から引っ張られ、首元が冷える中、徒然と思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、感想、評価を頂きまして、ありがとうございます。孤独な作品作成の中で皆様の思いが指針となり、モチベーション維持となっております。これからも末永いお付き合いのほど宜しくお願い申し上げます。 twitterでつぶやいて下さる方もいらっしゃるのでアカウント(@n0885dc)を作りました。もしよろしければそちらでもコンタクトして下さい。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ