第13話 文字の勉強
色々諦めていたけど、はっきり諦めた。人の子になったと言う事で庭で遊ぶ事が許されたので、フェリルとジェシの隙を盗んで色々観察していたのだが、ここは地球とは思えない。というのも、気候が安定しているにも関わらず、文明の痕跡が全く見当たらない。普通、こんな土地ならば人間が絶対に入植している。そうなれば、電線の、電柱の一本も見つかるはずだ。そうでなくても飛行機の航路にだってなるだろう。夏の燦々と照り付ける太陽を背中にぽへーっと空を眺めても、その片鱗も見つからない。過去にタイムスリップとかか? それとも大規模戦争の後なのか? 色々考えたが、全く自分で調べる手段が無いので、今は取り敢えずこの身を自由に使えるように画策中だ。
「てぃーだ、あちょーの」
「てぃーだ、こっちぉ」
はっと気づくと、玩具を譲って隙を作った筈のフェリルとジェシが嬉しそうにててーっと向かってくる。年上の幼児達の後ろをかいくぐりながら逃げるが、どんどんと追い付いてくる。捕まると思った瞬間、すっと影が背後から射す。
「だめーっ!!」
後ろを振り返ると、人影が二人との間に立っていた。大きい子が割り込んできたと言う事で二人が少しだけ泣きべそをかきながら戻っていく。悪い事をしたかなと思いながら見上げると、三歳くらいの髪の長い女の子がぺたんと座り込む。
「だいじょうぶ?」
首を傾げて聞いてくるので、こくりと頷きを返すと、にぱりと満面の笑みで返してくる。
「はしるの、あぶないの。だめよ?」
女の子はそう言うと、同い年相手の輪に入っていく。後で母に聞いたが、ウェルシという、二つ程年上の女の子らしかった。私はこの隙にと、地面に木の枝でがりがりと字を書いていく。早めに文字と単語を書けるようになりたいのだが、羊皮紙はかなり高価なようで、たとえ裏紙でも落書き用途には使わせてくれない。話によると、削ってまた使うそうだ。そんな状況なので、文字の練習をしようと思うと、外に出た時に地面に書く程度しか出来ない。もう少しどうにかならないかなと思案していたら、ぽてんと背中に感触が当たる。振り返ると、泣きそうな顔をしたフェリルとジェシがそっと手を差し出している。
「ごえーなちゃい」
どうも、年上の人に怒られたのがよっぽどに怖かったのか、服の裾を握ってぷるぷるさせながら、謝ってくる。その姿を見て毒気を抜かれた私は、そっと両手で、それぞれの頭を撫でる。
「だいじょうぶだよ」
すると、雲間から太陽が顔を出すかのように明るい表情で、二人が笑顔を見せてくれた。




