第127話 穏やかな秋の一幕
遅めの収穫祭が終わった。
暫くすると本格的な冬が到来する。
冬支度は着々と進んでいる。
薪に関しては、王都から輸送されてくる物がうず高く積み重なっている。
塩もダーダーが約束した通りに大量に輸送してくれたのでこの冬は乗り切れそうだ。
塩が大量に手に入った事により、本格的な冬支度が開始された。
秋、豊富な実りを食して丸々と太ったイノシシやシカがどんどんと狩られていく。
狩られた獲物はさくっと燻製に姿を変えていった。
近隣、特に北方の村々は戦争というか略奪の爪痕が大きく、いまだに王都からの輸送で賄っている部分が大きい。
その経路になっているこの村は兵達の落としてくれるお金で臨時の景気に沸いている。
一部子供のいる世帯からは治安の悪化が囁かれていたが。
「千切るな」
「千切るよ?」
という、父とセーファそして老人会の総意で今日も千客万来だ。
燻煙の筋は絶える事無く、秋の抜けるような青空に立ち上っている。
「ふぉ!! ティーダなの!!」
「あちょぶの!! きょうはあちょぶの!!」
ぽへーっと活気づいている村を眺めていると、でーんと背中に衝撃を受ける。
振り向くと、向日葵のような笑顔が二輪。
フェリルとジェシがべったりとくっ付いている。
収穫祭の時はちょっと大人になったかなと思っていたが、甘える姿はまだまだ子供だ。
と言っても、まだ三歳児。そういうお年頃なのだろう。
「なにしてあそぶ?」
色々村の仕事に忙しくて構ってあげられなかったので、罪滅ぼしにと聞いてみると、二人がぱぁっと咲き誇る花のように輝く笑顔に変わる。
「どーちゅる?」
「ぅぉぉ。おままごちょ?」
「ぅーん……。ふぉ!!」
「なに?」
「おうまさん!!」
「ふぉ!!」
という訳で、乗馬と相成った。
ベティアも大分慣れてくれたので、最近は父から二人乗りの許可が下りた。
鞍と鐙の効果は絶大で、今年の四歳児達は次々と馬を乗りこなしている。
老人会からは教育に良くないのではという声も一部から上がったが。
「乗れない期間が長いより、乗った期間が長い方が良い。馬も喜んでいる」
という父の一言と、実際に自分達が使ってみて馬の疲労が軽減されるのが分かったのか、すぐに立ち消えた。
「ふぉぉ!! ちゃかいの!!」
フェリルが前でわちゃわちゃしているのを宥めながら、並足で進む。
普通あまり馬上で騒がしいと馬は嫌がるが、ベティアはそういう神経質なところが無い。子供好きで大らかな子だ。
草原を吹く風はめっきり冷え込み、冬の到来を間近に感じさせる。
「さむくない?」
問うと、ぷるっと震えるフェリル。
「ふぉ、おちょいれ」
恥ずかしそうに呟くフェリルをまじまじと見つめ、急いで村の方に駆けだした。
「ちゅぎー!!」
ててーっと村の方に駆けていくフェリルを見送り、ジェシが今度は乗り込む。
「まえをむいてないと、あぶないよ?」
フェリルは興奮してわちゃわちゃしていたが、ジェシはじぃっと振り向き加減でこちらを見つめてくる。
「かっこういいの。ふぉぉ……」
こんなところは女の子だなと思いながら、ベティアの足を進める。
村の周囲をぐるりと回り、今日の散歩は終わりと、鐙を蹴って降りる。
「おじょうさま、おてを」
そっと手を差し出すと、ちょっと恥ずかしそうにしずしずと手を差し出してくるジェシ。
ぎゅっと握り、飛び降りたジェシを抱える。
「ふぉぉ……。ぃいの……」
何かを懊悩するかのように呟くと、ててーっとジェシも村に向かって駆けていく。
「しかし、二人共そろそろ乗馬を覚える時期なんだけどね……。ねぇ、ベティア」
誰もいなくなった草原でベティアと二人きり。首元をかりかりと掻きながら呟くと、ぶふるぅんっと機嫌が良さそうに嘶いた。
井戸から水を汲み、ベティアの手入れを行う。水はまだ冷たいというほどでは無いが、徐々に温度は下がっている。
機嫌の良さそうな声を聞きながら、汗を拭き、ブラシをかけていった。
「あら、ベティアのお世話?」
勝手口の方から館に入ると、母とヴェーチーが炊事をしている。
「うん。フェリルとジェシをのせてたの」
今日の報告を伝えると、にこにこと母が頭を撫でてくれる。
「フェリルちゃんもジェシさんもそろそろだものね。夏には一緒に遠乗り出来るかしら?」
「うん!!」
湯気が昇る鍋をテーブルに並べたら、父が帰ってくる。
温かな食卓に、温かな家族。
幸せな日常を送っていると、徐々に冬は近づいて来た。




