第126話 収穫祭(三歳)
炊事の煙がそこかしこで上がる中、子供達はうずうずとしながら母親の腰の辺りにまとわりつく。
村は料理の香りに包まれ、高揚した雰囲気をまとっている。
戦争の影響で延期していた収穫祭を執り行うと告知したのは五日前だ。その時の村人の狂喜っぷりは後世に語り継ぎたいほどだった。
男性陣は林立していた杭を引っこ抜いて、どんどんと薪に変えている。
若人達は獲物の調達に余念がない。でも、テキサスゲートが痛むまで追い込むのはやめて欲しい。久々に父の怒号が飛んだし、熊おっさんと虎おっさんが必死で直していた。
女性陣は飾りつけの刺繍や食事の準備でてんやわんやだった。村の建物は色とりどりの布で彩られ、見違えるように華やかになった。
子供達は……。
「はなれなぃのー!!」
「いっちょにあちょぶー!!」
小さな子供達が鈴生りになって、両手にぶら下がっている。
お母さん達は皆揃って集会所で刺繍タイムだ。
比較的歳を取った子供が面倒をみるように言いつけられている。
「おにぃ、うまみちゃい!! おうまたん!!」
「あ、ぼくもー!!」
私にくっ付いている子は比較的男の子が多い。
噂で流れてくる格好良い像が先行し過ぎている気がする。
「ふぉぉ、ティーダとあそぶー!!」
「ちょ、はなれちぇ!!」
フェリルとジェシにも子供達がべったりだ。あっちは女の子が多い。
でも、女の子の方が独立心が高いからうろちょろとしているように見える。
「二人共、ちゃんと面倒を見なさい」
監視役のフェリルのお母さんに怒られる、二人。
戦争が終わってから数日は私を独占して堪能してたので、溜飲は下がっていると思うのだが……。まだまだ足りないという感じで攻めてこようとしている。
「じゃあ、みにいこうか。しずかに、ちかづかないでね」
「はーい!!」
元気いっぱいの男の子達に注意して、馬房に向かった。
収穫祭は恋の季節という事もあり、村の中ではこう、桃色というか、淡い恋模様がそこかしこで繰り広げられている。
日頃は中々素直になれない男女がいちゃいちゃとしだすのもこの時期の風物詩だ。
家の前にも人が鈴生りになっている。お目当てはヴェーチーなのだが……。
「いーやー!!」
今年も独り身を過ごすらしい。ぎゅっと抱き着かれたまま移動するので、歩きにくい事この上ない。
「おはなしするのとかもだめなの?」
「目が怖い……」
ふるふると呟くヴェーチーにははと苦笑を向けつつ、村の男衆に嘆息してしまう。ちょっと欲望を表に出し過ぎだ。
そんなこんなで収穫祭の当日。
子供達が集められて、例年通り練り歩く。
私は何故か、動きにくい正装に化粧まで施され、輿に乗せられる。
「パパ、なにこれ?」
「今年はマギーラ様の周期だからな。お出ましのお迎え役だ」
話を詳しく聞いてみると、日食の年らしい。お爺ちゃんが暦で予測したようだ。
で、日食は主神マギーラが地上に降臨するにあたって太陽が伏せるというのが解釈らしい。
そのお迎え役というのが子供の中から決められる。
まぁ、祭りの神輿みたいなものだ。
しょうがないので黙ってじっと輿の上で座っていると、男衆が威勢よく輿を持ち上げる。
鼓笛隊がぶんちゃかと軽快な曲を鳴らす中、そこからはジェットコースターみたいだった。村の道を高速で何周も練り歩く。
行く先行く先で祝福の水とか称して、ばっしゃばっしゃ桶の水を振りかけられる。
周りで見ている子供達は大興奮だが、乗っている私は滑るわ、冷たいわで泣きそうだった。
十分に練り歩くと、町の広場に向かって静々と進む。
迎えるのは宝飾品満載の胡散臭いおじさんだ。
「今年も無事この日が迎えられて善哉、善哉。さぁ、マギーラ様のお迎えだ」
女の人に手を取られて、ふらふらになりながら輿から降りる。
祭壇の上に座り、差し出された杯をぐいっと傾ける。
馬の血が混じった馬乳酒。周りの子供達にも馬乳酒の小さな杯が配られている。
厳かな祝詞と共に、広場の組木に炎が灯される。薄暮のうっすらと闇に覆われた広場に煌々と輝きが広がる。松明に炎が分けられ、随所に配られていく。
マギーラへの御礼、そして降臨が無事に済むようにとの祈りが奉じられ、胡散臭いおじさんが一歩退く。
「では、祭りを開催する!!」
父の言葉と同時に、阿鼻叫喚が始まった。
今年も色々手出しした。
何よりも大きかったのは……。
「三代目!! 飲んでますか!!」
まだ飲めねぇよっと声を上げたいほどに現れる有象無象の酔っぱらい。
酒は腐るほどある。各地の銘酒だ。本当なら一生手を伸ばす事も出来ないものでも、今日はぱかぱか開けている。
それに蒸留酒もある程度は解禁している。今年の産物は祭りで消費すべしという声が大きかったので出したが、酔いを加速させただけな気がする。
食べ物に関しても、ビュッフェ台が軋むほどに色々乗っている。
去年も凄かったが、今年はそれを遥かに超える。特にお肉関係の充実は目を見張る。
酒が多く来たので、酢や煮切り酒として調味料に転化したものも多い。
調味料が増えれば、料理のレパートリーも増えるという事で、物凄い山が生まれている。
何よりも人数が増えた。主軸は兵の皆だろう。
若手は女の子に手を引かれながら、鼻の下を伸ばしている。
古参は父の周りで、武勇伝に花を咲かせながら酒を楽しんでいる。
それに行商が段違いに増えた。本来なら祭りのシーズンは掻き入れ時という事で、王都の方に集まるのだが。
時期がずれたのと、色々村の産物が欲しいというのがあって、今年は祭りの最中でも露店を開いている。
収入が増えた皆が、財布のひもを緩めてしこたま買い漁っているのを微笑ましく覗く。
売り切れれば、たちまちに酔客に混じって飲み始めるんだから、バイタリティーに呆れる。
気ままにふらふらと歩いていると、がしっと両腕を掴まれる。
見ると、フェリルと、ジェシがむんずと掴んでいる。
「あそぶの!!」
「あれ、おいしいの!!」
あぁ、今年も、来年もこんな感じで楽しめたらなと。
笑顔の二人の頭を撫でて、祭りの輪に混じる事にした。
リハビリにこんなのも書いています。
甘イケおじさんやJKが好きな人におすすめです。
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