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第113話 少女?蒸留中……

 てちてちと庭を歩きながら皆の様子を見ているが、台所が気になってしょうがない。そろそろ夏も盛りになろうかというのに、蒸留器はわんさかと火にくべられている。


「ふぉぉ!! ようすをみるの!!」


「火の管理は女の仕事よ。お外で遊んできなさい」


 と、ヴェーチーと一緒に母にぺいっと追い出された。ちなみに父も追い出されたので、そのまま執務室に籠っている。ふんわり漂ってくるワインの甘い香りとアルコールの香りに惹かれているのだろう。



「あまいかーりするの」


「うまー?」


 しょうがないかと受け身の練習をするために、ころころと転がっていると、やっぱりわらわらと皆集まってきて、ころころと転がる。側転をすると、うぉぉと叫びが上がったが、まだ体が出来ていないのと腕の筋肉が無いので皆体を支えられない。後転の練習をして、腕の力を付けないと駄目だろう。

 そんな中、幼馴染ーズが目敏くくんくんと香りを嗅いで聞いてくる。


「おくすりと、おさけをつくっているの」


 そう告げると、なーんだとてちてちお母さんの方に向かう。薬とお酒なんてまだまだ興味なんてないよねとしめしめ顔で運動に勤しんでいたのだが、ある時お母さん方の井戸端会議から歓声が上がる。

 ふぉっと驚き顔で見てみると、ヴェーチーがあわあわと慌てたような顔で困っている。うん、周りのお母さん方の表情で分かった。海千山千のお母さん方の誘導尋問に引っ掛かってばらしちゃったんだろうな……。

 ふぇぇと半泣きでこちらに向かってきたヴェーチーを抱擁で受け入れて、頭を背伸びしてなでなでする。


「言っちゃダメって言われていたのに……」


「おかあさんがたあいては、しょうがないの。かくすのむりなの」


 私がそう慰めていると、背中にべたっと何かが抱き着き、肩が鋭く痛む。

 振り返ると、ジェシがへばりつき、フェリルがはむっと肩を噛んでいた。


「きえーになるの!!」


「じゅーよー!!」


 どうもお母さん方の話を聞いたのか。接近を許してしまった。

 まだ二人には、えーがなと思いながら、ぺいっと幼馴染ーズを移動させる。


「ふぉ、きえーじゅーよー!!」


「てぃーだもうえしいよ?」


 なんでやねん、というか誰の入れ知恵だと思ったら、両お母さんがそっぽを向くので犯人は特定出来た。


「そんなものなくても、ふたりはかわいいよ」


 そんな事を耳元で囁きながら、なでなでしてあげると、幼馴染ーズはでへでへと大人しくなった。完勝と思っていたら、両お母さんがちっと舌打ちしそうな表情でいたので、女は怖い。


「ざいりょうのつごうもあるし、まきもつかうから。たくさんつくれないの」


 面倒くさいなと思いながら、井戸端会議に乗り込むと、年甲斐もなく可愛い感じでえーえーと騒ぐ。と言っても、高校生から大学生くらいの年なんだから、年甲斐はあるのか。


「せいこうしたら!!」


 私が強く言うと、ちぇっという感じで大人しくなった。


「あら、ティーダ。いたいた。ぽとぽと出ているけど、どうしたら良いのかしら?」


 とそんな中に獲物のように母がててーっと来たので、お母さん方が集ろうとするが、めっと叫ぶとすごすご引き下がった。その様子とヴェーチーのしょんぼり顔を見て悟ったのか、笑いながら成功したらお裾分けという事でお母さん方を沈黙させていたので、母は強い。



 台所に向かうと、冷却器代わりの桶から飛び出た筒よりてとんてとんと水滴が落ちている。掌でくいくいと仰ぐと強いアルコールの香りが広がる。皮でパッキンしてみたが、問題なく水を防いでいるので成功だなと。

「このみずがくすりのもとなの。ちょっとずつでてくるの」


 私が告げると、ふんふんと母が重要な内容のように力強く頷く。


「けがをしたときにこれをかけると、ひどくならないの」


 破傷風に近い症状は良く見るので、殺菌にアルコールを使っても良い。これから戦争に進むのであれば、確実に必要だ。そう思って告げると、母がへーっと驚いたように口を丸くする。


「ヨモギみたいね」


 母がそう言うと、私は少し唸る。


「ちどめと、きずをよごしているりゆうはべつなの。へいようするのがいいの」


 タンニンの収斂作用の事を言っているのだろうし、フラボノイドにも抗菌作用はある。ただ、抗菌作用を求めるなら、精油くらいまで抽出しないと頼りない。それならアルコールを直接塗布した方が効果的だ。


「これで怪我が原因で亡くなる人が少なくなれば良いわね」


 先程までの浮ついていた表情は無く、レフェショの妻といった表情でほほ笑む母を見て、ちょっと誇らしく思う。


「で、奇麗になる薬はどうするの?」


 とすぐに崩れたので、台無しだ。


「どれぐらいとれるかしだいなの」


 そう告げると、二人からえぇぇと悲しい悲鳴が聞こえる。それでも、駄目な物は駄目だ。父の了解を取らないと量産が出来ないので、父の機嫌の方が重要だ。


 てとんてとんと落ちる水滴に、三者三様思いを籠めて、そっと見守った。

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