第109話 平和な朝と気分転換
ふぉっと寝不足気味で目を覚まし、うぅーんと伸びる。母とヴェーチーは余程に疲れたのか、まだ小さな鼾をかきながら熟睡している。
はふはふと昨日の子供達との遊びを反芻して興奮しているラーシーを連れて、朝靄がかかる外に出る。空はまだ濃い紺色で、東の果てがほのかに橙に染まっている。
地面にラーシーを置くと、てちてちと嬉しそうに駆け回り始めるので、私は厩舎の方に向かって馬の確認をする。ベティアも起きぬけなのか、ぶふふと小さく嘶くと、ごつごつと水桶を鼻先で叩く。井戸からからからと滑車を使って水を汲み、家の馬達に水を与える。藁を切り、飼料と混ぜていると、ひょこっと父が顔を出した。
「ふむ、ティーダ。起きたのか。早いな」
「うん、おはよう、パパ。ちょっとだけしんぱいだったの」
いかに気心が知れている客とはいえ、私自身が知る相手では無かったので、一番資産価値があって大切な宝物が気になって目が覚めてしまった。
父にそう伝えると、苦笑を浮かべながら、ぐいぐいと頭を力強く撫でられる。
「何もかもを疑えとは言わないが、注意する事は悪い事ではない。そろそろ向こうの女衆も起き出す頃だろう。変わろう」
父の言葉に頷き一つ。ててーっと厩舎を出ると、辺りを走り回って気が済んだラーシーが後ろに付く。部屋に戻ると、母とヴェーチーも起き出して朝支度をしていたので大人しくラーシーと一緒に戯れて支度の終わりを待つ。
ヴェーチーは引き続き部屋で隠れておくと言う事で、台所に向かうと、もう既に各家のお母さん方が集まってきていた。キャディーナ達の食事の準備が始まる。
「なにかてつだう?」
母に問うと、連れてきた子供達の面倒の方が手が足りないというので庭の方に回ると、いつもの面子とキャディーナ達と一緒に来た子供達が一触即発という感じで対峙している。
「なかよくしないと、め!!」
私がそういうと、村の子達は素直に折れるし、昨日ラーシーと一緒に遊んだという記憶のある子供達も納得してくれて、皆で遊び始める。
「ころころすゆの!!」
「こえ、もじとたんごをおぼえゆのよ?」
幼馴染ーズはお客様対応を率先して行ってくれている。初めて見る遊びに目を輝かせながら、キャディーナ組の子供達がわらわらと遊び始める。大変そうだなと思って眺めていると、ちらっちらっとフェリルとジェシが見つめてくるので、後で褒めてあげないと。
暫く少しずつ慣れる感じで遊んでいると、母が庭に現れて食事を告げると、キャディーナ組の子供がさぁっと執務拠点の方に向かった。
「がまんして、おしえてあげていいこ」
幼馴染ーズ始め、子供達に声をかけていくと、誇らしげにニマニマしていたのが、ちょっと可愛い。
また暫くすると子供達が合流してくるので、今度はスムーズに迎え入れて、一緒に遊び始める。遊具に関しては量産しているので足りないという事は無いし、年長の子は最近の体操とか運動の方に興味があるのか、そちらメインで遊んでいる。
その様子を眺めて、問題無いかと判断し、ラーシーを庭に置いて、部屋に戻った。
「あら、良いの?」
刺繍をしていたヴェーチーが顔を上げて問うてくる。
「うん、みなあそんでいるから」
私はころりと転がって、今後の戦争に関わる防塁のイメージなどを固め始める。皆殺しを目的としている相手ならば、村への侵入を防ぐだけで問題無いが、収奪を目的としている相手であれば守る範囲は広くなる。特に畑への侵入は防ぎたい。
ころころと転がりながら、うんうん唸っているとくすくすと笑い声が聞こえる。顔を上げると、ヴェーチーが口に手を当てて、我慢で顔を真っ赤にしながら笑っている。
「ふぉ?」
「ん? えぇ。だって、難しい顔をしてころころと転がっているもの。おかしくて」
そんな事をいうヴェーチーの表情の方が新鮮でちょっと面白かったので、母が朝ご飯を告げに来るまで、二人で仲良くお互いに笑いあうという結果になった。
さてさて、閉じ籠り気味になっているヴェーチーの気分転換も出来たところで、父とセーファに相談かなと。頭の中で思い浮かべた防塁と防衛方針を胸にてくてくと執務拠点の方に向かう事にした。




