第101話 三歳の誕生日
こりこりと無心で細工を削る。足の長さと同じく指も伸びてきて中々器用な細工も彫れるようになった。リハビリ、リハビリと思いながら、彫刻刀でこりこりとする。
「あらあら。目が悪くなるわよ……」
気付けば部屋は薄暗くなっていた。ふぅっと吹けばさらりと表層のやすりの粉が飛び角から染み出した油分で滑るような光沢を持った乳白色が浮かび上がる。
「まぁ、奇麗ね……。葉っぱ、かしら。でも、そんな棒何に使うのかしら。お料理の道具なの?」
「ふふふ。ないしょなの」
私がにこっと答えると、まぁっと眉を上げた母が微笑みながら、頬をうりうりとくっつけてくるので、押し返す。
「ジェシちゃんのプレゼントだものね。喜んでくれると良いわね」
「うん!!」
「さぁ、手を洗ってきなさい。ご飯よ」
「あいっ!!」
しゅぴっと手を挙げて元気よく返事をして、ててーっと手を洗いに向かう。野生なラーシーは彫り物細工をしている最中に構って構ってと縋りついていたが、無視していると不貞腐れたように眠っている。私が走り出しても、くいっと顔を上げ、ふんっと鼻で息を吹くと、またくるりと眠りに落ちるようだった。
「たんじょーび、おえーと!!」
ジェシの誕生日に先駆けて、私の誕生日がやってくる。本日から私、三歳になります。この一年で成長したので、フェリルとの身長差も徐々に解消されてきている。ただ、向こうの方が成長期に入るのは早いのでまた一気に追い抜かされそうだ。
「えへへ。おえーと」
皆から次々とプレゼントを受け取る中、笑み崩れたフェリルが布の袋を手渡してくれる。中身は蛇の刺繍が入った帯だった。蛇は冬眠するという事で家内安全と財産の守護を司っている。お母さんの入れ知恵なんだろうなと思いながらも、去年よりも成長した刺繍の跡に頬が綻んでしまう。
「ありがとう」
「でへ。ちゅき」
ぎゅっと抱きしめたフェリルがちょっと恥ずかしそうにててーっとお母さんの方に駆けていく。
今日は来ていないが、ウェルシの弟からと言う事で外套をもらう。緻密な手織りの布に綿密な刺繍。所々にあしらわれたウサギの毛皮が温かそうだ。もう大人顔負けだなと成長を喜ぶと共に、将来に向けて邁進しているウェルシを思うと温かい気持ちになるのが半面と自分自身も頑張らないと駄目だなと目標にする気持ち半分がふわっと盛り上がってくる。
「ティーダ……」
もじもじしていたジェシがぎゅっという感じで布の袋を押し付けてくる。開けると、ミトンの手袋が入っていた。手のひら側には皮が施され、甲の方には馬の刺繍があしらわれている。馬は財産と成功を司っているが、これそのものが乗馬用の手袋という意味なのだろう。刺繍の出来はやっぱりジェシの方が上手い。フェリルはちょっと始末が雑だが、ジェシはもう将来の片鱗が出始めている。
「うわ……。ありがとう」
「ううん……。ティーダ、うまのゆの。きをちゅけるの……」
「うん。うれしい」
ちょっと潤みがちの瞳で見上げてくるジェシの頭を撫でると、ひゃっと目を瞑り、気持ちよさそうににこりと微笑む。ずどんと横からフェリルが突っ込んでくるのはお約束だ。
今年は大きなネタも無かったので、食事会は無かった。去年は戦後の慰撫という部分も大きかった。それでも温かな雰囲気のまま誕生日は過ぎていく。
「はい、ティーダ。今年も一年生きてくれてありがとう。心配はし足りないけど、私達の誇りには変わりないわ、ティーダ。来年も幸がありますように」
「私も手伝ったの。喜んでもらえると嬉しい」
少し早めの夕食が終わると、母とヴェーチィーから袋を手渡される。開けてみると、これもまた細やかな刺繍が施されたズボンが入っている。お尻と内股に革が施されているので乗馬用のズボンなのだろう。
「ふぉ、うれしいの!!」
にこっと喜ぶと、二人が温かな微笑みで抱きしめてくれる。それを大きく抱擁する父。
「ティーダ、明日は少し早めに起きるよ」
「ふえ?」
「丁度近くで馬市が開催される。一緒に行こう」
「ふぉぉ!!」
父の言葉に期待が膨らむ。子供の頃に修学旅行で乗馬体験をした以外では、父に乗せてもらうくらいしか経験は無い。でも、この世界で自分の足以外の交通手段を持てるのは嬉しい。これは興奮で眠れないかも。ニマニマと微笑んでいると、ぐりぐり頭を撫でられる。
「あまり興奮しすぎないように。体調が悪いとまたに伸ばすよ?」
「あいっ!!」
元気よく返事した私に、家族達は温かな微笑みをくれた。




