変身
「よう、龍二。10年ぶりだな」
バイクから降りた源治は龍二を睨みつける。
「貴様、なぜここがわかった」
龍二は凛を源治の足元に投げて捨てる。
「そこのじゃりんこの落とし物のおかげだ」
そう言って廃協会の住所が書かれた紙を龍二に投げて渡す源治。
「源治・・・・」
「どっせい!」
凛の頭に激痛が走る。その正体は源治の拳骨だ。
「このバカタレ!!自殺行為してどうする!ちったー実力差ってもんを考えろ!」
「でもあたし、姉さんの敵・・・それに源治が・・・」
「・・・・お前の気持ちはわかった。けどよ次からは相談するってことを覚えろ。お前には菫もいる、俺もいる。お前は一人じゃないんだ」
「・・・・・うん」
「・・・さてと感動の再会はここまでだ。かわいい相棒をイジメてくれた礼をたっぷりとさせてもらわなきゃな」
源治が拳をバキバキと鳴らしながら前に出る。
「そんな体でどうするつもりだ?あの時撃った弾には銀の弾頭を使った。人造怪異のお前には効いただろう」
「それがっ、どうしたよ!!」
不意打ち気味に源治の右フックが龍二の顔面に突き刺さる。すでに目は赤く「外し」を行っていることがわかる。
「・・・全然効かないな。それで全力だっていうのなら、随分と弱っているみたいだな!」
右フックをまともに受けても微動だにしない龍二の前蹴りが源治の腹に突きささる。
「うごっ!」
吹き飛ぶ源治、すぐに凛が駆け寄る。
「源治!!」
「うおお、クッソ痛え・・・・。わざわざ傷跡狙いやがったな。鎮痛剤が効きやしねえ」
腹を押さえて痛がる源治。その懐から鎮痛剤と思わしき空のブロック注射が何本も落ちる。先程の衝撃で傷口が開いたのか包帯に赤い染みが広がる。
「しゃあねえ、出し惜しみしてる暇もねえか。下がってろ」
フラフラと立ち上がる源治。
「丸腰で何をしようというんだ?このまま抵抗しても痛みが増すだけだぞ」
「うっせえ、良いから見てろ・・・・・・・・・拘束解除」
源治は腰の前で両腕を交差させ拘束解除と呟くとともに両腕を腰の横に持っていく。その瞬間源治のバックルの髑髏の目が赤く光不気味に笑い始める。
そして源治の足元に魔法陣が現れる。龍二はその瞬間、まるで自分の周囲に幾千幾万の死神が自分に鎌を突きつけているような錯覚を感じた。龍二は10年前にも感じたその感覚を覚えている。
殺さねばならない。そう本能的に察した龍二の抜手が源治に迫る。
「・・・・変身」
その瞬間源治の身体が炎に包まれる。衝撃で龍二が吹き飛ばされる。
「GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
炎の中から聴こえる咆哮。それは破壊と殺戮、暴力を望む衝動。眼前の敵を全て屠りさらんとする魔神の咆哮。
「ならこの小娘をっ!!」
すぐに体制を立て直した龍二は凛にターゲットを変え、その拳が凛に迫る。
「っ!!」
迫る拳に反応できずにギュッと目をつぶる凛だったが、それが到達することはなかった。
「お前、誰に手出してんだ?相手が違うだろ」
炎の塊から突き出た腕が龍二の腕をつかむ。その腕は人間の腕ではなく、装甲に覆われた怪物の腕だった。龍二は腕を振り払おうとするが振り払えない。その手に込められた力に腕が砕けそうになる。
「おらぁ!!」
続けて現れたもう一本の腕が龍二を殴り飛ばす。受け身も取れずに無様に地面を転がる龍二。
炎が晴れ、現れたのは源治ではなかった。腕だけではなく足や身体も黒い装甲に覆われ血管のように赤く太いラインで縁取られている。そして最後に生身のままだった源治の顔も装甲に覆われる。
その姿はまるで地獄からの死者、あらゆる禍々しいモノの頂点に立つ人外の王。
「なぜだ!なぜ試作品にすぎない貴様が「開放」を使える!?」
「そんなこと俺が知るか!!と、言いたいところだが。俺は10年前のあの日から力を求め続けた。それこそ全てを粉砕する力を。そんで、これが完成したのが最近だ」
そう言ってベルトの銀の髑髏を指差す。
「こいつには曰く付きのマジックアイテムやら術式やら色々混ぜ込んでてな。目的はただ一つ「俺の怪異としての力を完全に引き出す」それだけだ」
「貴様のような姿の怪異など存在しない!ホラを吹くのもいい加減にしろ!」
「そりゃそうだ。なんせ俺は1から作られた怪異なんだからな」
「なに!?」
「俺は実験番号000号、吸血鬼ジェームズ・モリアーティーがあらゆる怪異の細胞と人間の細胞を混ぜ合わせて造ったお前らと違って正真正銘1から造られた人造怪異。製造コンセプトは「究極の力」実験名「阿修羅」それが俺の正体だ。言ってたぜあいつ。「君のその力は神にも魔神にもなれる。それこそ君に付けた名前。阿修羅の名のとおりね」ってな」
今までの人造怪異とは違い人間を母体として怪異の細胞を移植するのではなく、最初から人造怪異として造られた存在。それが葛城源治だった。




