正義(かっこいい)
「ここにあいつが・・・・」
凛は龍二が渡した紙に書かれていた場所に来ると廃教会の中に入っていく。
「お待ちしてましたよ、城ヶ崎凛さん」
教会の一番奥。十字架の下に龍二は居た。姿は変わらずに白いタキシードのままだ。
「あんたが姉さんを・・・・」
「いやだなぁ、私は常日頃から力が欲しいと思っていたお姉さんに手っ取り早く力をあげただけですよ。あなたのお姉さんを殺したのは葛城源治の方です。まぁ人造怪異の力を嫌っていたようなので少し脅してはみましたけど」
「脅し?」
「ええ、「人造怪異の力をもって葛城源治を殺さなければあなたの妹を殺す」とね」
「なんでっ・・・そんなことを!」
「決まっていますよ。あいつを殺せればよし、殺せなくても「仲間が人造怪異になるのを止めることができずに尚且つその仲間を殺した」という十字架を背負わせるためですよ」
「なんでそんなにあいつを恨むの?」
「あいつを恨む?・・・・決まっているだろう!あいつは俺のプライドに泥を塗った!やつは俺を負かした後こういったんだぞ!「岩永家の長男っていっても大したことないな」と!ふざけるな!ただ暴れるしか脳のない雑種風情が武門の名家である岩永家の長男である俺を下に見たんだぞ!」
源治の話題となると先程までの紳士的な態度は崩れ乱暴に話し始める龍二。源治への恨みを吐きながら何度も地団駄を踏む龍二に凛は一種の狂気を感じた。
「・・・・・あんたに源治は会わせない。ここで殺す。」
「お前程度が俺を殺すだと!?お前も俺をバカにするのか!!」
そして凛の決死の覚悟での戦いが始まった。
「あっ・・・ぐっ・・・」
凛の命を懸けた決死の戦いも龍二には届かずに地面に転がっていた。辺りには凛の放った術式による破壊の爪痕がいくつもある。
「ふんっ・・・源治のパートナーと聞いて少しはやるかと思ったが初戦は子供。才能はあっても経験が足りないな」
そう言いながら凛を踏みつける龍二
「がはっ」
踏みつけられた衝撃で空気を吐き出し苦しそうにする凛
「行かせ・・・ない。源治のところには・・・・絶対に」
「あいつも随分と慕われたものだな、・・・・さて、あいつを更なる絶望に突き落とすために死んでもらうぞ」
そして凛の首を掴むと持ち上げ力を込める龍二。
「あんたって・・・・かっこ悪いよね」
「ん?」
「だってさ、それだけ強いのに源治と直接戦わないで裏でコソコソやって、結局はあれでしょ?あんた、自分の強さに自信がないんでしょ?自信がないからそうやって小狡く立ち回るしか無いんでしょう?」
「貴様っ・・・」
「ほら、図星なんだ。あいつは、源治はいつも自分が最強だって思ってる。だから強い、断言しても良い、あんたなんか源治と100回戦っても1回も勝てないよ」
「そうか・・・・それほど死にたいなら、死ね」
龍二の手に更なる力が込められる。気道が塞がれ空気を吸えなくなった凛の体は意思とは裏腹にメチャクチャに暴れ始める。徐々に意識が遠のき凛の目から光が失われつつある中凛は昔の静葉との会話を思い出していた。
「ねぇ姉さん」
「どうした凛?」
「姉さんが今組んでいるのってあの葛城源治なんでしょ?大丈夫なの?」
「・・・・そうだな、あいつは確かに乱暴でガサツでデリカシーがなく魅力的とは言い難いが、それでも一部の人間はあいつの中に魅力を見出すんだ」
「魅力?」
「ああ、いつ、どんなときでも自分の定めた「正義」を貫く。そのひたむきな姿が見ている人間を魅了するんだろう」
「正義を・・・・貫く・・・・」
凛は薄れていく意識の中で「それ」を聞いた。
それはバイクのエンジン音だった。その音を出すバイクを凛は知っている。そのバイクを運転する男の大きな背中を凛は覚えている。その男は凛にとって父のような存在であり、兄のような存在でもあり、そして大切な相棒。
「源治・・・・・」
そして教会の扉を突き破り現れたのは至る所に包帯を巻かれた素肌の上に直接黒いロングコートを羽織り、ズボンは黒のレザーパンツ。腰に巻いた黒色のベルトのバックルには銀色の髑髏があしらわれていてそれが光を反射し鈍い光を放っている。身長は180cm程であり、髪は黒く、それを頭の後ろで縛っている。
顔は少し彫りが深く、ワイルドな風貌だ、顔つきを見る限り30代後半といったところだろうが顎髭を生やしていることもあり見方によっては40代にも見えるだろう。
「遂に来たか・・・葛城源治」
「おう!天上天下唯我独尊天下無双の葛城源治。定刻どおりに只今参上!ってな」




