燃えろ喧嘩空手
「邪っ!」
源治のまともに当たればコンクリートブロックを砕くパンチをロボは僅かに頭を横に傾けて避ければカウンターを狙った右ストレートが源治の頭部を襲うが、源治はそれを読んでいて残った左腕の側面に擦らせいなす。
「・・・どうやら素手でも変わらず強いのは本当らしいな」
「当たり前だ、誰と戦ってると思ってんだ・・・よっ!」
そう言って伸ばしたままの右腕でロボの服の襟を掴めば左腕でロボの右腕を掴み背負投に移行する。ロボは投げられる直前に自分から飛び加速しわざと投げられることで源治から距離を取り何事もなかったかのように着地する。
「そうか、ならこちらも早々に本気を出そう」
ロボの構えが変わった。先程までは標準的なボクシングの構えだったが、今は拳は握らず姿勢は低く前傾姿勢を取り、人間というよりもまるでライオンや狼等肉食獣を彷彿とさせる構えだ。
「やっぱ出たか「風の拳」。ならこっちも「外す」ぜ」
そう言ってコートを脱ぎ去れば源治の周りの空気が冷たく鋭くなる。すると源治の目が赤く光り、心なしか源治の体が膨張して見える。
これが10年前龍二との死闘の際に目覚めた人造怪異の力であり、源治はこれを「外し」と呼んでいる。
「だらっしゃあ!!」
「ぬん!!」
一瞬で源治とロボの位置が入れ替わる。すると、ロボの背後にはまるで鋭い刃物で付けたかのような傷が地面に走り、源治の背後の地面には拳の形に陥没したクレーターが出来上がる。
再び対峙する両雄。
ロボの方は変わらず爪をむき出しにし獲物を狙う獣の構え。対する源治は両手を前に突き出し右手は上、左手は下に置いて構える空手で言う「天地上下の構え」を取る。
「空手か・・・貴様の流派は我流ではなかったのか?」
「お前の風の爪に対してはポン刀振り回すより素手でやったほうが対応しやすいと思ってな、ガラじゃねえのは百も承知だがやってみたら意外に面白くてよ。こいつはさしずめ「我流喧嘩空手」ってところだろうよ」
「男子三日会わざれば刮目して見よとはこの国のことわざだが。本当に貴様という存在は面白いな。ついいつまでも殺し合っていたいと思ってしまうが・・・・今回で決着としよう!」
「言われなくてもそのつもりだ!てめえはここで殺す!」
先に動いたのは源治だった一瞬で間合いを詰めた源治の蹴りをロボは横に飛んで躱す。源治の蹴りが当たった壁は巨大な十字の形に抉れる。
着地したロボの大腿部がはち切れそうなまでに膨れ上がる。そしてためた力を一気に爆発させ、源治に飛びかかると左右あらゆる角度から鋭い爪が源治に襲いかかる。源治はそれをすべてロボの手首を狙ったパリングで撃ち落とす。
攻撃を撃ち落とされたことで両腕が僅かに左右に広がったのを源治は見逃さなかった。強引に前に進みロボの懐に入ると左襟と右腕を掴み柔道の体位落としの様にロボの体を投げる際自分も一緒に回転して飛ぶことでロボを下敷きに地面と自分の体で挟み込むようにして地面に叩きつける。叩きつけた後は素早く立ち上がり右足を空高く掲げると地面に倒れたままのロボに対して踵落としで追撃しようとする。
当たれば無事ではすまない踵をロボは転がって避けると四つん這いの状態から四肢に力を込め一気に開放することで源治に飛びかかる。そして、頭に向かって繰り出された鋭い抜手を頭を横に傾けることで避けるが、額に鋭い痛みが走る。痛みの正体は額の左側に走った横一文の切り傷であった。これこそがロボの「風の爪」と呼ばれるものであった。ロボの怪異としての能力は速さに特化したものであり、その速さは手足を振るった際に手足の周囲に鎌鼬を発生させる程である。これが源治が傷を追った理由だった。向き手を躱したと思った源治はロボの手の周囲に発生した鎌鼬までは躱すことができずに額を斬られたのである。
「また早くなったんじゃねえか?」
「貴様こそ、空手に加え他の格闘技もやったな?それもかなり高いレベルで」
「知り合いがそういうのが得意でな、苦労したぜ。いくら俺が天才っつても空手、柔道その他もろもろ実戦で使えるまで磨くのはよ」
「ふっ、最後に殺し合ってからお互い技の研鑽は怠らなかったようだな」
「どう転んでも俺に殺されるのにご苦労な・・・こったな!!」
直状態を打破するための源治の肘による打ち下ろしがロボの脳天に直撃する。源治は脳を揺らされ怯んだロボの腹部に右拳を当てると一気に全身の筋肉をフル稼働させる。
「吹っ飛べ」
そして源治の得意技「寸勁」が炸裂する。通常寸勁とは体重移動を利用した強烈な突き飛ばしのことである。しかし人並み外れた戦闘センスと筋力によりそれは強烈な打撃技へと進化した。
過去幾人の肋骨を砕いてきた源治の寸勁が炸裂したことにより吹き飛ばされたロボはそのまま壁に叩きつけられ崩れた壁が土埃を上げる。
相手が並の相手ならこの一撃で決まっただろう。しかし相手は源治と何度も相対して生き残るほどの剛の者。これで終わるはずがない。
戦いはまだ始まったばかりである。