予感
ランニングの後考えがよくまとまらないまま帰宅した凛。そこに源治はおらず、リビングのテーブルの上には「武器のメンテに行ってくる(冷蔵庫のプリン食ったらぶっ飛ばすぞ)」と雑な字で書かれた置き手紙が置かれているだけだった。
「・・・・食べよ」
置き手紙をゴミ箱に捨て冷蔵庫を漁ると、源治がこっそり買っていた駅前の有名スイーツ店「IXA」で一日限定98個しか売り出されない「ライジングプリン(税込み753円)」が出てきたので取り出すとスプーンを用意して食べ始める。
「(あいつに直接聞こうと思ってたけどあてが外れちゃったな・・・)」
そう思う反面逆に居なくてよかったと思う自分もいた。
「メンテナンスって行ってたから帰ってくるの遅くなるのかな・・・なら。」
そう呟くと空になったカップをゴミ箱に捨てると二階に上がっていく。目指すのは源治の部屋だ。
「あいつに聞けないなら自分で知らべなきゃね」
思い返すと源治の部屋には大量の本があったし本人もよくどこの国の言語かよくわからないような文字で書かれた本を読んでいるのを目にしていたということは、もしかしたら日記等記録媒体があるかもしれないと源治の部屋に入る。
初日に入ったときのように、源治の部屋は壁一面に本棚があり、床にも本の山が積み上がっている。凛はまず、机の上を見てみることにした。机の上には執筆中の新作「DEATH・THE・CRYSIS~ゾンビ・クロニクル~」の原稿がありファンとしてつい読んでみたくなる衝動に駆られるが、他にないか探してみると一冊の本を見つけた。
内容は源治の日々の内容を綴った日記であり、そこには静葉が初めてやってきた日のことも書かれていた。
「○月●日新しい相棒だとぬかす女がやってきた。乳がでかいのは良いが俺に相棒はいらねえと返すといきなり発砲してきやがった。なんて女だ。しかも変に口が回るたちなのかいつの間にかこの屋敷においてやることになった。絶対に追い出してやる。」
「○月●日城ヶ崎静葉というらしいこの女を追い出すために模擬戦で勝ったらコンビを組んでやると条件を出した。これでここも静かになるだろう明日が楽しみだ。」
「○月●日勝つには勝ったがあの女とんでもないタマだ、史上最高クラスの術式使いってのもまんざら嘘じゃないらしい。とりあえず今後の成長が楽しみなので置いておいてやることにする。決して色仕掛けに釣られたからじゃない。・・・本当だからな?」
「あのスケベオヤジ・・・・。」
最初の書き出しに不安になった凛であったがいざ読み進めてみれば源治と静葉がいいコンビだと思えるような内容が綴られた日記であった。そこには時には衝突しながらも源治は静葉の成長を素直に喜んでいる様子も書かれており、読み進める限りは源治が静葉を殺したなど到底信じられなかった。そうして適当にページをパラパラと捲っているとある部分から何も書かれておらず白紙のままだった。不審に思いどこから白紙になったのか探っているとある日のページを境に何も書かれなくなっていた。その日というのは、静葉の死んだ日だった。そこにはただ一文
「俺が殺した」
とだけ書かれており他には何も書かれていなかった。
途端に竜一に言われた言葉が脳裏に蘇る。「静葉は源治が殺した」「源治は人造怪異だ」その2つの言葉が何度も頭のなかで繰り返される。呆然とする凛を正気に戻したのは携帯の呼び出し音だった。着信元は「源治」と出ている。
「ようやく出たか。こんな真っ昼間からだが仕事だ、この前移動用に買ってやった原チャリがあるだろ。それで指定した場所に来い!遅れんなよ!」
そう言って言うだけ言うと一方的に電話を切る源治
「あっちょっと待って!・・・・・・切れてる。」
見ると携帯に一通のメールが来ており、源治から集合場所が書かれたメールだった。
「大丈夫・・・だよね?」
無意識にそんなことを呟けば視線は竜一に貰った拳銃型注射器に注がれる。とにかく、怪異討伐用の準備をすれば青い原チャリに乗り指定された場所まで走らせる。行き先は山の中の今は誰も寄り付かない廃寺。そこは奇しくも、源治の相棒であった岩永亜紀が命を落とした場所であることを凛は知らない。




