Death of past~エピローグ~
源治と龍二の戦いの決着後、処理班が隠蔽のため燃えた本堂の消火、そして修練場で気絶していた四神の捕縛を行った。
後の四神に対する取り調べで発覚したことだが、今回の事件手引をしたのは岩永家前当主岩永平八郎 (いわながへいはちろう)であることがわかった。平八郎は龍二に対して人造怪異の施術を行った者への渡りをつける代わりに、数名の配下とともに龍二が岩永邸にすんなり入れるよう内側から工作を行ったことがわかった。
この報を受け退魔部総隊長兵部荘厳はすぐに岩永家の所有する物件に隊員を送ったがもぬけの殻であった。源治に連絡しても何故か連絡がつかず手詰まりになっていたところに、急報が飛び込んできた。
その内容は平八郎が見つかったという内容であった。ただし、死体で。
平八郎の死体が発見されたのは岩永家ではなく平八郎が人知れず個人的に所有していた別荘であった。平八郎はそこで原型を留めていない形で発見された。平八郎だとわかったのは、その後の遺伝子検査によるものである。人造怪異の施術を受けたあとは見られず。現場の壁には「これが最後」とだけ書かれていたという。
亜紀の死体は源治が火葬し館の裏手に埋葬したとのことだ。亜紀の形見である妖刀「斬無」は今のもなお源治の手にあり怪異を斬り続けている。
「あの事件の後の源治の荒れ具合はとても酷くてNE、とにかく怪異がいると聞けばそこにすっ飛んでいってたった一人で現場に乗り込み皆殺シ。しかも死体は全てと言っていいほどバラバラ、時にはミンチなんてのもあっTA。お陰で当時私を含め何人もの隊員が現場で吐いたものサ。その時に付いた渾名GA狂ったように死を撒き散らす死神「狂った死神」というわけサ」
「・・・なんでそんな話を私に?」
「・・・これを言うとあいつは否定するだろうガ、あいつは臆病なんDA。特に自分に親しい人間が居なくなるのが怖くてたまらなイ、だから粗暴に振る舞って人を遠ざけRU、でも本当は一人でいるのが寂しイ。矛盾した男なんだよあいつHA・・・・・・・だから凛君、お願いがある。決して死なないでくれ、私はもうあいつのあんな姿は見たくない。あの・・・死地を求めて彷徨う痛々しいまでに孤独な獣のようなあいつを・・・・」
過去菫が一度だけ見た源治の姿。事件現場から全身を真っ赤に返り血で染めて自分も傷だらけになり、そこまでなってなお誰の力も借りようとせず他人を遠ざけようとする手負いの獣の姿。あの時の源治の表情を思い出すだけで身震いがする。
「・・・大丈夫だよ。私は何があっても死なない。少なくともお姉ちゃんの仇を取るまでは死ぬつもりなんて毛頭無いから。それにお姉ちゃんとも約束したしね「まずは自分の命を大事にすること。他人を助けるのはその後」ってね」
「フフっそういえば君はあの静葉の妹だったNA。それなら安心だろウ、これからも源治を頼むヨ」
「うん、・・そろそろ行かなきゃ。今日の料理当番私なんだ」
そう言って凛は自分の分の代金をテーブルに置いて店を出る。夕食の分の買い物を終え屋敷に戻ると、そこでは既に戻ってきた源治がリビングのソファでふんぞり返りながら雑誌を読んでいる最中であった。
「お、戻ったか。今日の飯係」
「わかってるって。今から用意するから待っててよ」
「前みたいな暗黒物質は勘弁してくれよ?」
「うっさい、あのときは少し失敗しただけだって。ほら暇なら洗濯物でも取り込んできてよ」
「へーへー女王様の仰せのとおりに」
めんどくさそうに立った源治は雑誌をテーブルに置き干した洗濯物を取り込もうと外に出ようとする。
「ねえ・・・・私絶対死なないから」
「何言ってんだ?そんなの当たり前だろ。お前がくたばったら手続きが面倒なんだ手間増やすんじゃねえぞ」
凛の方を向いて一瞬「何言ってんだこいつ?」といったかををした源治だが、凛は見えた。外に出るときの源治の顔が嬉しそうに笑うのを。
「ほんと、素直じゃないんだ・・・」
そう呟いて夕食の準備に取り掛かろうとした凛に室内のはずなのに後ろから風が吹き付ける。そして
「・・・・・・源治殿をよろしくお願いしますね」
一瞬風に乗ってそんな声が聞こえたような気がした。辺りを見渡すが当然だれもいない。しかし気のせいと切り捨てるにはあまりにしっかりした声に凛は答える。
「うん、わかった」
誰に向けたかそう返事をすれば、夕食の準備を再開する。
季節は夏を過ぎ秋になろうとしていた。




