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SLASH/SHOT~Frame Warrior&Ice Valkyrie~  作者: 雑賀ランボー
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Death of past~決着~

 龍二と源治の激闘は激しさを増していった。


 人造怪異として怪異の力と能力をフルに使う龍二。それに対して、亜紀の形見「斬無」を振るい果敢に攻める源治。しかし、いくら源治の身体能力が常人離れしているとはいえ相手は雷を操り、人間を超えた力を振るう剣豪である。次第に体に傷を負い始めてきた。


「ほらほら先程の威勢はどうした!」


「うるせえ!こっから逆転するんだよボケ!(とはいえ実際武器は手に馴染むけどよ、さっきからどうにも戦い方が噛み合わねえというかしっくりこねえな)」


 源治の思った通り、斬無の特性によって武器を己の手足のように振るうことはできていたが、源治の中で「何か」が引っかかっていた。その「何か」のせいでうまく戦えないというか、とにかく不自由な感じだった。


そんなことを考えながら戦っていると、龍二の攻撃はますます激しさを増していく。左右上下様々な角度から襲いかかる二刀を一本の刀でいなし時には避ける、なんとか傷一つつかずに凌いでいるが、反撃はできないでいるままだった。そして二刀による攻撃をまともに刀で受け大きく吹き飛ばされる。吹き飛ばされた先は本堂であった。本堂の中でも殺戮は行われており、起き上がると室内ゆえ匂いがこもっていたせいかむせ返るような血の匂いを体中に浴びる。すると、源治の中で何かが目覚める感覚がした。それは亜紀にも告げず仮面を被ってでも目をそらし隠したかった自分の本性。


 本当は自分は殺し合いが好きで好きで仕方なく血に飢えた獣であるということ


 ふと意識を取り戻すと既に目の前には源治の頭を貫こうと白刃が迫っていた。


 畳の上に血が流れ新たなシミを作る。しかしそれは、白刃が源治を貫いたからではなかった。その正体は、源治が素手で刃を掴み止めている故の出血だった。

 当然龍二は刃を引こうとする。しかし万力で締め付けられているかの如く刃は動かない。それならばと残った右手の刀で首を跳ねようとする。それすらも右手一本で構えた刀で防がれる。


 「貴様・・・一体何をした!」


 予想外の事態に狼狽する龍二に対して源治は


「ようやく思い出したんだよ。俺が何者かなのをな」


 その声を聞いた瞬間龍二はまるで自分の周囲に幾千幾万の死神が自分に鎌を突きつけているような錯覚を感じた。急に鼻に強い衝撃を感じる。その正体は源治の頭突きであった。そして間髪入れずに腹部に衝撃、源治の蹴りによって今度は自分が大きく吹き飛ばされる。うまく着地した龍二に間髪入れずに源治が飛びかかってくるその一撃を刀で受け止めると先程よりも数倍重くまた数メートル後ずさる、人間を超えた膂力だった。


「貴様・・・・その力はまさか!」



「お察しの通り、実験番号000号。あの糞ボケが作った人造怪異のプロトタイプだ。尤も、お前ら正規品みたいに特殊な能力が使えるわけじゃねえけどな。だけど・・・」


 突然源治の足元が爆発したように弾ける。次の瞬間には龍二の目の前に現れた源治の猛攻が始まる。そのどれもが一撃必殺、人間を超えた力で振るわれていた。


「少なくともマシンスペックはお前らと並んだか上みたいだなっ!」


 そう言って力任せのフルスイング。これを龍二は大きく後ろに飛ぶことで躱す。


「貴様、あのお方によってあの力を与えられたのならなぜ脆弱な人間の味方をする!」


「そんなもんソッチのほうが格好いいからに決まってるだろ。お前ら暴れるぐらいしか能がないバカどもに付くぐらいなら人間に味方したほうが億倍増しだっつーの・・・それに人間に味方してお前ら斬りごたえのある怪異共と殺し合えるじゃねえか」


 そう言って源治が浮かべた笑みは、人間のものではなく、まるで地獄の悪鬼羅刹、死神のような笑顔だった。


「狂った・・・死神」


 それを見た龍二が小さく呟く


「そんじゃおしゃべりはここまでにして続き、始めるか」


 そして源治が駆け出す。


「クソっ!」


 悪態をつきながら龍二が放った電撃は走りながら振った一閃によりかき消される。


 そして、源治の間合いに入れば斬り合いが始まった。が、先程と違うのは源治が一切の防御をしなくなったことだった。龍二の攻撃全てを防御せず全て紙一重で避けながら反撃をしている。龍二の方も二刀を巧みに操り耐えることのない連撃を繰り出すが多少斬られても防御せずにドンドン前に出ながら刀を振るう源治に怖気を感じ、気づけば傷を与えているのは龍二なのに龍二がジリジリと後ろに下がっていっている。


「はっはっは、ははははははは楽しいなぁ楽しいなぁ!すっかり忘れてたぜ!殺し合いがこんなにもスリリングで楽しいものだったなんてな!」


 これが本来の「非天無双流」だった。格闘術と武器術の組み合わせなど本来あってないようなもの。真の飛天無双流の極意は相手の攻撃を防御せずにギリギリで躱すことで、戦闘の高揚感に身を任せ血に酔うことで、己の中の残虐性を引き出し相手を殺戮する一歩間違えれば人斬りへと落ちる危険性を孕んだ殺しの剣である。


 今の源治の中には亜紀を殺された怒りや悲しみは存在していなかった、ただ斬り合いを楽しむ一匹の獣、剣鬼がそこにいた。


 これが本来の葛城源治だった。善もなく悪もなく、ただ純粋に斬り合い、殺し合いを楽しむ地獄の悪鬼羅刹。上着に仕込んでいた重りも防具としての仕様ではなく己の動きを鈍くすることで殺し合いを長く楽しもうとするハンデを無意識に付けていただけであった。ただその本性は生きていく中で己の中で培われた仁、義、礼、智、信の五常で覆い隠された上で無実の人間をこの手にかけた重圧で完全に封印されていた。それが亜紀と出会い、久しく血の匂いを嗅いでいない状態で嗅いだ血の匂い、そして亜紀を殺されたことへの怒りがこの本性を表に引きずり出した。


 口悪いながらも情に厚く正義の為に戦う男が葛城源治であるとするなら、こうして血に酔い斬り合いに酔う男も葛城源治である。このように一歩道を違えれば人に仇なす人斬りとなる素養を含みながらも己の正義に従って戦う。それこそが葛城源治という男であった。


 そして激しく火花が散る中一瞬の隙を突き左手で龍二の頭をつかむとそのまま持ち上げ地面に後頭部を叩きつける。そこから地面に引き釣りながらその場で一回転し、先程自分が吹き飛ばされた本堂に叩きつけるように投げる。


 源治が吹き飛ばされたときよりも大きな音を立てながら本堂に突っ込む龍二の体は奥の仏像を破壊したことでようやく止まる。そしてすぐに立ち上がることができたのは怪異になった故のタフネスだが、内心は今までいたぶっていた存在に恐怖を感じ尚且つ圧倒されているという事実に完全に錯乱していた。


「なぜだ・・・なぜ俺は貴様に劣る!なぜ誰も俺を認めない!なぜ俺ではなく出来損ないの妹なのだ!?なぜだ!兄より優れた妹なぞいるはずがない!なぜあいつを認めて俺を認めない!」


 駄々をこねる子供のように感情を吐き出す龍二、それに対して源治は言い放つ。


「お前が俺より弱いのはまあ自然の摂理だ。諦めろ。そんでお前が当主になれない理由だけどな。それはお前が使ってるのは「武」じゃないからだ。武ってのは戈を止めるって書いて武だ、守るためじゃなくて殺すため、名声を得るために力を振るうお前より亜紀のほうが武門の党首にふさわしいのは明白だろ。お前や俺みたいなのはあいつらの居ないところで裏路地で食い合ってくたばるのがお似合いだ」


「ふざけるなああああああ!!!」


 激高した龍二が二刀を構えて飛びかかる。


「まあその続きはあの世で考えてくれや」


 冷ややかに言い放った源治から放たれた三段突きは正確に龍二の心臓を捉え心臓を消し飛ばす。壁まで吹き飛ばされ即死した龍二の体は床に落ちずに壁にめり込み磔のような形になる。


「電気鼠は京都で花札作ってるのがお似合いだったな」


 そう言い捨てると源治は本堂を後にするその際偶然倒れた燭台が建物に引火し本堂を赤く染め上がる。本道を背に歩く源治の影はまるで地獄の鬼のような形だった。

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