Death of past~斬無~
月明かりが照らす中、二人の剣豪が火花を散らす。
片方は型など無いメチャクチャな攻め方だがその攻めは猛火の如く一撃一撃が必殺となりうる剛の剣
もう片方はその手にした二刀を自在に操り猛火のような攻撃を暴風の中の柳のように受け流す柔の剣。
そして何度目かになる鍔競り合いに発展する。
「中々頑張るがとっとと斬られろってんだよ。今ならまだ一撃で首を跳ねてやるからよ」
「それはこちらのセリフだ。出来損ない風情がハエのようにブンブンと目障りだ」
「言うようになったじゃねえか。けどよそのハエに一度やられたお前は何なんだよ。ウンコか?あ?」
「黙れえ!」
力任せに源治を押し飛ばす龍二
「短気なのは相変わらずだな、だったらこれはどうだ?」
そう言って源治が取ったのは八相の構えそして龍二に向かって走り出すと、その手前で大きくジャンプし、龍二が視線を後ろに移した時にはその姿は既になく、気配が右や左等目まぐるしく移り変わる。龍二がハッとして視線を前に向ければそこに居た源治が放つのは亜紀が得意とした天然理心流奥義三段突き。
以前亜紀が源治に放ったものより数段早く重いその三連撃は明確に当たりこそしなかったものの、龍二を大きく後退りさせ右肩に傷を負わせた。
「貴様・・・・」
「せめて一太刀、あいつの剣でてめえの体に傷を負わせてやりたかった。」
「随分とあいつに肩入れしているな源治、・・・・さてはあいつと寝たな?」
「・・・・・」
「答えないということはそうか、まああいつは見てくれだけはそれなりに良かったからな。俺はてっきり政略結婚の道具にしかならないと踏んでいたが「黙れ」」
「てめえが俺やアイツを大なり小なり恨んでるのは知ってるがこっちも怒髪天突いてんだよ。退魔部の一員として、あいつの無念を晴らすため、そして・・・・俺自身の怒りのためにてめえを斬る!」
そう言って源治は上着を脱ぐと上半身裸になる。脱ぎ捨てられた上着はゴトリと重い音を立てて石畳の上に落ちる。
源治の上着には補助用の道具もそうだが裏地に鉄板を仕込んである。それは一人で最前線に立つための防具であり、己を鍛えるための枷でもあった。
それを脱ぎ捨てたということは、これを脱がなければ龍二に勝てないと踏んだ結果であり、一切の遊びなしに龍二を斬るという意思表示の結果でもあった。
「コートを脱いだということは本気か、ならばこちらも相応の力を出さねばなるま・・・・」
龍二が何かを言い終えるよりも早く、源治が懐に入り振り下ろした一撃は龍二の左目を切り裂き、左腕を切り落とした。
「ぐっがああああああああああ!」
「言ったろ、ぶった斬るってよ」
「貴様ああああ!俺の腕おおお!」
「それが辞世の句か、じゃあ死ね」
再度振り下ろされる非情の一撃。しかし次の瞬間龍二の顔に笑みが浮かび、そして源治の体が吹き飛ばされた。壁に叩きつけられた源治が龍二を見ると、斬ったはずの龍二の左腕が再生している。しかしそれは人間の腕ではなく、まるで獣のように鋭い爪を生やした毛むくじゃらの腕であった。
「そうかい・・・それがお前の中にぶち込まれた怪異か」
「ああ・・・「雷獣」(らいじゅう)だ。俺にぴったりだろう?」
再生した左腕で落とした刀を拾えばその体からはバチバチと電気が爆ぜる音が聞こえる。
雷獣・・・雷を操る獣の怪異であり、奇しくも雷の術式を操る龍二との相性は抜群だった。
「犬っころは骨っ子でも食ってろ!」
駆け出した源治から放たれる速度、タイミング、威力ともに完璧な一撃、常人であれば武器ごと真っ二つになるであろうそれを龍二は羽毛でも防ぐがごとく刀一本で防いだ。
「何だと!」
「生憎もう貴様の馬鹿力は俺には効かない。なぜなら・・・俺の力のほうが貴様の力を上回ったからだ!」
そうして片腕一本で、両手で刀を握る源治を押し返していく。
「んぎぎぎぎぎ」
「ほらどうした?頑張らねばもう斬ってしまうぞ?」
「うるせえ!」
わざと力を抜いて右腕の刀を向け流せば、間髪入れずに襲われた左からの攻撃に宇文字が弾き飛ばされれば、乱雑に放った蹴りが源治を吹き飛ばす。
埃を巻き上げながら建物に突っ込んだ源治が間髪入れずに起き上がり、門弟が使っていたであろう槍を拾い上げ弾丸のように突っ込んでいく。しかし龍二の手前で槍を使い棒高跳びの要領で龍二を飛び越せば頭上から弾丸のように鋭い一突きを放つ。それを僅かに体を動かして避ければ、瞬く間に槍をバラバラに切り刻むと同時に
「邪魔だ」
刀の切っ先から放たれた電撃が源治を空中で絡め取り投げ飛ばす。投げ飛ばした先は先程源治を蹴り飛ばした建物と同じ場所だった。
「弱い・・・弱すぎるぞ葛城源治!・・・いや違うか、俺が強くなりすぎただけのようだな。やはり俺こそが誇り高い岩永の家名を継ぐにふさわしい存在なのだ!」
「うるせえ!!その岩永家の人間はてめえが皆殺しにしたんだろうが!」
源治は今度は弓と持ち矢筒を背負い、一度に三本の矢をつがえ放つ、それを龍二は切り払うと
「次は遠距離勝負か?良いだろう!受けて立とう・貴様が何をしようと全て正面から叩き潰してやる!」
そして二本の刀から放たれる雷が源治を襲う。源治はそれを避ければ、走り出す。走りながら襲いかかる電撃をジャンプしたりスライディングとアクロバティックに避けその度にカウンターで矢を放つ。
矢が切れると二本の小太刀を拾えばスピードで撹乱しようと切り込んでいく。そして無影流のように右へ左へ位置を変えながら様々な角度から小太刀を繰り出すが、傷一つ付けるには至らずに、逆にまた電撃を浴びて吹き飛ばされる。
龍二はあえて源治を殺さずにいたぶって楽しんでいた。その為先程からの電撃もあえて吹き飛ばすだけであまりダメージを与えていない。精神的にもいたぶりたいのか先程鍔競り合いの際に落とした刀を踏み折られる。
「てめえ・・・さっきから露骨に手抜きしやがって」
「当たり前だ。あの時貴様に浴びせられた屈辱はまだ晴れてはいないからな。まだ手にして日が浅いこの力のモルモットになってもらうぞ」
「へっ、そんな相手を舐めるみみっちい正確だから俺にも負けるし亜紀にも当主の座を奪われるんだよ」
「煩い!そんなに死にたいなら良いだろう。今度はもっと強い雷を貴様にくれてやる。・・・死ねぇ!」
どうやら源治に負けた話や当主の話は龍二にとって逆鱗なのかひと目でやばいと分かるような電撃が源治に向かって放たれる。
雷撃が着弾し地面が抉れ、土埃が舞う。それが晴れると源治はまだ健在であり、その後ろには亜紀の死体が、そしてその手には亜紀の愛刀「斬無」が握られていた。
「やけにあっさりと吹き飛ばされたと思ったが・・・そのためだったか」
「おうよ、こっからは俺と亜紀二人がかりで行かせてもらうぜ」
そして不意に刀身が炎の渦に包まれる。名刀「斬無」その名の由来は文字通り「斬れぬものなど無い」程の切れ味だが、この刀にはもう一つ妖刀としての側面がある。この刀は、所有者が決まった時刀が持ち主を気に入ればある能力を発揮する。それは「持ち主の技量が尤も発揮できる形状に姿を変える」と言うものだった。亜紀の時には姿を変えなかった。だが、源治が刀を手にした時変化が起きた。
刀身を覆う炎が晴れると刀は厚さは通常の日本刀の2倍はある本来斬ることを目的とした日本等の切れ味に加えて西洋の剣のように厚みを増し叩き切る要素を加えた剛刀「斬無:鬼斬包丁」へと姿を変えていた。
源治は右手に刀を持ち左手を前に突き出し刀の峰が左手の甲に当たるように構え不敵に笑う。
「さあ、こっからは第2ラウンドだ」




