Death of past~再会~
気を失った亜紀を源治が保護してから30分ほど経った頃、ようやく亜紀が目を覚ました。
「・・・・あれ・・・ここは」
「起きたか、どっか痛むところ無いか?」
「いえ・・特にはありませんが・・・そうだあいつは!」
跳ね上がるように上半身を起こした亜紀は、先程まで自分が戦っていた網剪の姿を探す。
「あいつならそこだ、もうくたばっちまってるよ」
「そうですか・・・良かった」
「しっかしお前も無茶するな、戦った相手と心中なんてよ」
「そうでもしないと・・私の刃は届きませんでしたから」
「・・・まあ。勝ったから良いけどよ。今度からはこういうのは辞めろ、心臓に悪い」
「はい・・・しかし源治殿がそこまで苦戦させられるとは、相手は中々の手練を用意していたようですな」
「手練っつーか、姿を消す狡いやつで手間取っただけだ。場所がわかればお前でも切れる、それよりもうこの辺には怪異は居ないみたいだ、とっとと帰るぞ。」
源治が網剪から抜いた斬無を鞘に抜いて亜紀に渡せば亜紀の手を引っ張り起こすが。
「・・・・出来損ないとは言えもう少しやると思っていたんだがな、できそこないの妹すら殺すことができないとは」
突如二人の前にローブを纏った男が現れた、身長は源治と同じぐらいだが、顔は野性的な源治と違い端正な顔立ちをしている。
「久しぶりだな源治、亜紀」
「貴方はっ・・・」
「久しぶりだな・・・龍二。行方不明だって聞いたが、どういう風の吹き回しだ?」
「少し旅をしていた。源治お前を倒すためにな」
「その結果がそのダッセえコスプレかハロウィンはまだ先だぜ」
「年中黒いコートを着ている中二病患者に言われたくはないな。亜紀もまだそんな男に憧れて似たような格好をしているのか。」
「ほっとけ。で、俺は今からお前に聞かにゃいかんことがある。場合によってはお前は今日から腹とドタマでタバコが吸えるようになるがな」
そう言って龍二に銃を向ける
「源治殿っ!いくら仲が悪いと言っても銃を向けるのはやりすぎです!」
「お前は気付いてないみたいだから教えてやる。こいつはさっき「出来損ないとは言えもう少しやると思っていた、できそこないの妹すら殺すことができない」と言った。つまり俺とお前が倒したこのボケどもはこいつの差し金で、俺達、少なくともお前は殺すつもりだったってわけだ。あとお前を又出来損ないと言ったのがなんか腹立つ」
「獣でも頭は回るみたいだな。そうだ、お前たちが倒したこいつらは俺の差し金だ、試験的な運用のつもりだったんだがな。このザマでは失敗作だ」
「ほお、そんじゃあれかい、こいつらは人為的に発生した怪異じゃなく、人間をもとにして作られた人造怪異ってわけかい。」
「そんなっ・・・・」
突然の事実に言葉を失う亜紀とは対称的に冷静な源治が、走り出すと牽制として龍二の立つ地面に向け銃を撃ちながら龍二に接近すれば左手で殴り掛かる。銃弾は牽制と読みその場から動かない龍二はそれを左手で軽く受け止めると、残った右手で源治に殴り掛かる。源治は素早く地面に銃を捨てればその拳を受け止める。プロレスの手四つの様な体勢で両者は拮抗する。
「坊っちゃんが、随分と荒っぽい受け方をするようになったじゃねえか」
「お前こそ相も変わらず猪突猛進か。だが、俺は昔の俺ではない。その証拠を見せてやろう」
そう言った龍二の目が僅かに赤く光ると、徐々に源治が押され始める。
「(こいつ・・・俺が押されるってどんなパワーだよ)お前まさか・・・」
「そうだ、私にも怪異の細胞が移植されている。もっともまだ体に馴染みきっていないから姿を変えることはできないがな」
「そうかい、だったらこれでどうだ!」
「ぐっ!」
源治は頭を後ろに引くと、龍二の額に向けて頭突きを御見舞する。そして龍二が怯んだ一瞬の隙を突いて、手四つの状態から脱出すると、距離を取り仕切り直しにと構え直す。
当の龍二はというと、額から僅かに血を流し源治を射殺さんとするような鋭い目つきで睨みつけている。
「この俺に傷をつけたな・・・・殺してやる」
そして龍二は腰に下げた二本の刀「陰鉄」(いんてつ)、「陽鉄」(ようてつ)を抜く。
「(やべえな・・・こいつが刀抜いたってことは本気だ、今の俺と亜紀じゃと人間トーストが2つ出来上がるだけだ。せめて亜紀だけでも)亜紀!俺が時間を稼ぐ、その間に逃げろ!」
「っ源治殿を置いて逃げることなどできません!」
龍二が刀を抜いた音で今まで呆然としていた秋が自分も刀を抜いて構える。どうやら逃げるつもりはないようだ。源治は小さく舌打ちをすれば先程の先頭でも使ったグローブを拳に嵌めて龍二を睨みながら構える。龍二はそんな二人に対してゆっくり歩きながら距離を詰めてくる。
先手を取ろうと源治が踏み込もうとすればふと急に龍二の動きが止まった。
「・・・撤退!?話が違います!私は葛城源治を殺す力と機会を与えると言われたから貴方の下に付いたのです!それを撤退などと・・・いえ・・・・承知しました」
突然虚空に向けて会話を始めた龍二はひとしきり喋ると刀を鞘に収める。
「我が主から撤退命令が出た、今回はここで引いてやる。だが、次にあったときは亜紀もお前も容赦はしない。今度は殺してやる」
そう言って源治に背を向けその場から煙のように掻き消える。
「源治殿・・・兄はもう・・・」
「ああ、見ての通り俺達の敵だ。あのバカ勝つために暗黒面に走るなんて展開なんざコテコテ過ぎて胸焼けがしそうだが、あの力は本物だ・・・さて、厄介なことになったな・・・」
「そう・・・ですか・・」
うつむいた亜紀の表情はわからないが今は放っておいてやるべきだろうとこれ以上は言葉をかけずに遊園地を後にする。