Death of past~ミラーハウスでの死闘~
「どこだぁ・・・」
源治はミラーハウス内を歩いていた。手には大口径のリボルバーを握っている。主兵装であるショットガンはミラーハウスに拉致された時落としてしまった。
「っ!そこかぁ!」
一瞬視界に映る蜃気楼のようなゆらぎを見つければ、そこに数発弾丸を打ち込むが、ただ鏡に当たり弾痕を作るだけであった。すると、背後から背中を切られた感触がし、すぐにその場で転がれば先程撃った鏡に背を当て正面からの追撃に備える。見れば源治の体には致命傷にはならない程度に無数の傷が刻まれており、流れでた血が床を真紅に濡らす。
「(クソっ、元々姿が見えねえ上に鏡だらけでますますわけが分からねえ。しかも一番ムカつくのがあの野郎、俺が場所がわからないのを良いことに遊んでやがる。さっきの一撃もその気があれば俺を殺せたはずなのにわざと浅く斬りやがった。心底ムカつく野郎だ、絶対ぶっ飛ばす)」
そんなことを思いながら銃のリロードを行えば、どこからか声が聞こえてくる。
「すぐには殺さない、じわじわとなぶり殺しにしてやろう。貴様は精々犯してきた罪を悔いながらずたずたになって死んでいくが良い」
「臆病者の上にドSとか笑い話にもならねえゲス野郎だな。生きてて悲しくならねえのか?」
「安い挑発だな。だが乗ってやろう特別に我が姿を見せてやる」
突如源治の目の前に一人の男が現れた。下半身は人間だが上半身はカメレオンの様な爬虫類の体をしている。
「私の名はコードネーム「ミラージュ」能力はその名の通り姿を消すことだ」
「コードネームだぁ?まるで人間みたいな言い草だな」
「然り、私は元は人間だ。「あのお方」の手によってこうして人知を超えた力を手にすることができた。」
「するってーと要は人造怪異ってやつか。あのお方っては随分趣味が悪いやつだ。そんなやつから力を貰って粋がってるお前は随分滑稽だな」
「減らず口を・・・まあいい貴様はこれから私に一撃入れることもなく死ぬのだ」
そういってミラージュと自称した男はまた姿を消す。源治は思わず舌打ちした。せねて会話を長引かせ隙を見つけようとしたのだが、短い会話では糸口すら掴むことはできなかった。
「(実際八方塞がりなのは事実だしな。さーてどうするか・・・駄目だな。考えれば考えるほどわけわかんなくなってきた。ここはいっちょシンプルにいくか)」
突然源治は、銃を懐のホルスターに納めれば、その場でコートを脱ぐ、コートの内側には防御のための鉄板が縫い付けられていて、地面に落ちると重い金属音を発する。他にも銃ごとホルスターを外したり、装備品を次々と外し地面に落としていく。最後に拳の部分に十字架を象ったナックルガードを両手に装備すれば、両腕を顔の前に上げ、肘をやや外側に出すボクシングで言う「ピーカーブースタイル」の構えを取ると、何を思ったか目を閉じてしまう。
「武器を捨てたかと思えば目まで閉じるとは・・・どうやら勝負を捨てたようですね」
「やかましい、良いから打ってこいよ。尤も、お前のへなちょこなベロじゃ俺を殺すまでには至らないけどな」
「では、死ぬがいい!」
そう言ってミラージュの舌がどこからか源治に向かって伸びていく。標的は心臓。源治は壁を背にした状態でその場から動く気配はない。
「(勝った!死ね!)」
内心ほくそ笑むミラージュだったが、直後その顔は驚愕の色で染まる。
源治を刺し殺すために心臓に向けられた先端の尖った舌は源治の胸板に少し刺さっただけで心臓を貫くには至ってなかった。それはなぜか、心臓に到達する前に源治が舌を左手で掴んでいたからだ。
源治は体から余計な装備品を外し身を軽くし、元々見えないのであれば一緒だと目を閉じることで余計な視覚情報を遮断し神経を研ぎ澄ませる。こうして舌の先端がその身に触れるのと同時に手を動かし、心臓を貫かれる前に掴んで止める。まさに獣のような反射神経を持つ源治だからこそなせる技であった。
「次はこっちの番だ!」
そう言って舌を手にしたまま走り出す。
「ここまで近づけば姿が消えてても気配でわかるんだよ!」
お互いの距離が近づけば気配でミラージュを補足し、獲物を見つけた肉食獣のように牙を剥けば、目が赤く光る。
「馬鹿め!まだ両手が残っているぞ!」
ミラージュの右フックが源治のこめかみに直撃するも、源治は殴られた部分から血を流しながらもその場から微動打にしなかった。
「軽いなぁ・・・本当のパンチってのはこう打つんだよ!」
源治の固く握られた右手がミラージュの腹部にめり込む
「がはっ!」
「まだまだ!荒れるぜ!止めてみな!」
舌から左手を離せば、左フックが横腹を捉える。立て続けの腹部柄の衝撃に思わず膝を付いたミラージュの頭部に右肘を打ち下ろし、右膝を顎に向かって蹴り上げる。上下からの衝撃により無理矢理口を閉じられたミラージュは自らの舌を噛み切ってしまう。口から大量の血を流すミラージュを源治はまだ足りないと追撃、様々な角度から様々な打撃が襲いかかる。倒れようにも要所要所に入れられた鉤突きやショートアッパーによって体を無理やり引き起こされ倒れることを許さない。そして遂には壁まで押し込まれると
「これで・・・終いじゃい!」
源治渾身の右ストレートによって頭部を撃ち抜かれ、その衝撃で壁を破壊し、ミラーハウスの外に到達する。
「このわたしが・・・こうもあっさり敗れるとは・・・葛城源治・・・噂以上の男だ」
そう答えるミラージュは折れた肋骨が心臓や肺に刺さり、他にも全身の骨や筋肉、内臓がズタボロの状態であり、もう長くはないのは明白であった。
「おい、くたばる前に答えろ。てめえは誰に作られた。黒幕は誰だ」
「くくく・・・私が言うわけがないだろう・・・貴様は後悔するはずだ・・・ここで死んでおけばよかったとな・・・・様バンザーイ!」
そう叫ぶとミラージュの体が炎に包まれ、危機を感じた源治が距離を取ると、恐らく事前に体内に爆弾を仕込まれていたのだろう、体が内側から膨れ上がり爆発する。
「万歳三唱しながら自爆かよ・・・今時の特撮でもやらねえぞそんな古いこと」
熱風に思わず顔を手で覆いながら呟くと、血を流しすぎたのか体がふらつき、地面に片膝を着く。
「この様子だと亜紀の方にもなんか行ったみたいだな。早いとこ援護に行ってやらねえと。・・・その前に止血だな、無事でいてくれよ亜紀」
そうして亜紀を案じた源治は、捨てた装備品を取りにミラーハウス内に戻っていった。




