Death of past~源治と亜紀~
「自分の先輩に当たる葛城殿とコンビを組めるなんて光栄であります!」
「俺はこんなやつ知らんぞ」
喧しいやつだと思いながら、源治は岩永亜紀と名乗る女を、観察する。
髪は紺色のロングヘア、身長は女にしては高い、170程だろうか。キリッとした顔つきは、男より女にモテそうだ。武器は見たところ腰に下げた刀のようだ。ふと刀に目をやると鞘に刀と槍、弓が交差した紋章が見える。
「お前、岩永ってあの岩永か?」
「はい!あの時は兄がお世話になりました!」
源治が言う岩永というのは、ある一族の家名であり、その一族の人間は武芸百般の内何かしらを収めているという、武門の名家であった。
そして、亜紀の言う兄とは源治の同期である岩永龍二のことである。源治は龍二と、昔一悶着起こして決闘を行なっており、結果は源治が辛くも勝利する結果となっている。
「兄貴は元気か?」
「はい!今も妥当葛城殿を目指して日々精進を重ねています!」
「んで?俺はこいつと組むっていうのか?」
「そうだ、これからはお前たち二人で仕事もやってもらうことになる」
「葛城殿のご迷惑にならないように粉骨砕身やらせていただきます!」
「お前、よく人にうるさいって言われないか?」
「はい!言われます!」
「・・・とりあえずこいつは零屋敷に持って帰れば良いんだな、おっさん」
「ああ、・・・すまんな」
「良いって、さっきも言ったが俺達は宮仕えだ。仕方ないさ。おら、行くぞスピーカー娘」
「私は22です!娘というほどの年ではありません!」
「そうか、なら行くぞスピーカー女」
「はい!」
亜紀の様子に調子を狂わせながら、源治は亜紀とともに東京本部を後にする。その際にバイクに二人乗りしたときの亜紀の胸の感触にドキリとしたのは若さゆえの過ちとして秘密にしておこう。
零屋敷、源治が暮らしている屋敷に帰ると亜紀を適当な空き部屋に案内する。
「ここが今日からお前が暮らす部屋だ。荷物が届くのは明日だろ?今日はリビングのソファで寝ろ。ここで暮らすルールは一つだけ、「決して俺の部屋に入るな」だ。それ以外は好きにしてもらって構わん」
「わかりましたが一つ聞いてもよろしいでしょうか?なぜ葛城殿はそのようなマスクを被っているのですか?それでは、周りの人間を怖がらせるだけだと思うのですが?」
「これをしてるのは止むに止まれぬ事情ってやつだ。わざわざ説明するほどのもんじゃない。・・・逆に聞くがお前はなんで俺なんかを慕うんだ?」
「理由は単純です。葛城殿は私がこの世で一番強いと思っていた兄を倒すほどの豪の者。武の先達に敬意を払うのは当然です!」
「そんなもんかね・・・とりあえず今日は遅いからもう寝ちまえ」
出かけたのが昼過ぎだったせいで、すでに日が暮れ夜となっていた。源治は亜紀に寝るように言い、部屋を後にする。
「はい!葛城殿!おやすみなさいませ!」
亜紀の元気の良い声を背に受けながら、部屋に戻れば、いつものようにマスクを脱ぎ床につく。
朝、源治の目を覚ましたのは、悪夢の終わりでもなく部屋の外から聞こえてくる亜紀の声だった。
「源治殿!朝です!起きてください!」
その大きな声にベッドから転がり落ちる源治、すわ火事かと慌ててマスクをして外に出る。
部屋の外に出るとそこにはタンクトップにハーフパンツ姿の亜紀が居た。前日は制服のせいでわからなかったボディラインがはっきりと分かる。胸は標準的だが手足はだいぶ筋肉質だ。かなり鍛え込んでいるのだろう。
「おまえかよ・・・ジェリコのラッパでも鳴ったのかと思ったぞ。」
「お休みのところ申し訳ありません!ですが!健全な精神は健全な肉体に宿るといいます!どうしても葛城殿と朝のトレーニングをしたいと思いまして!」
「わかったからもうちょい声落とせ、このままじゃ最終戦争が起きちまう」
「はい!申し訳ありません!」
「・・・かわってねーし、ちょっと準備するから待ってろ」
そういって源治は、部屋に引っ込みTシャツと半ズボンの姿で出てくる。
「さあ行きましょう!手始めに往復で30kmのランニングです!さあ行きましょう!」
「まじかよ・・・」
こうして源治と亜紀の共同生活が始まった