Death of past~邂逅~
退魔部零課【たいまぶぜろか】
それがこの時代の源治が所属している表向きには存在しない部署だった。
仕事内容は「怪異及び怪異に関係するもの、国家に害をなそうとするものの処刑」である。簡潔に言うと国家お抱えの殺し屋であり、その仕事内容に例外はなく怪異に関係したものであれば子供であろうと殺す。地獄のような仕事だった。
源治は入りたくてこの部署に入ったわけではない。ただ、「自分がやらなければ他の誰かにこの辛い役目を負わせることになる」その一心だけで誰にもこの仕事をやらせず、自分だけで零課の仕事を行っている状態だった。
任務を終えた源治は、人目につかないように郊外に用意された今も住んでいる屋敷に帰り自分の部屋のドアを開けるとそこは酷い有様だった。
壁には刃物によって付けられた傷や弾痕で埋め尽くされ、床には何本も酒瓶が転がっている。
源治はマスクを脱ぎ、床に転がしコートも脱ぎ捨てれば部屋の中央に置かれたソファに座り、傍らのテーブルの上に置かれた酒瓶を持つと中身を一気に飲み干す。
酒を飲み干すとその辺に瓶を放り投げソファの上で横になり、寝転がった状態で天井を見上げると、天井のシミが人間の顔に見え始め、慌てて目を閉じる。
無実の人間も、そうでない人間もこの手で殺していくうちに源治の心は摩耗していった。今では、マスクをしていないと人前に出られなくなっていた。人から直接顔を見られるのが耐えられないのだ。
そうこうしているうちに酒がまわり眠気に襲われると目を閉じ祈りながら夢の世界に逃げ込む。
夢の中でも源治は戦っていた。刀を振り回し、銃を撃ち、殴る、その相手は人間だった。今まで自分が殺してきた人間たち相手に源治は戦っていた。
最初は圧倒していたが、数の差で押し込まれ最後はズタボロにされて殺される。その瞬間に目が覚める。最近はその繰り返しだった。
目が覚めた源治は、携帯に連絡がメールが来ていることに気がつく。メールの内容は「本部に顔を出せ」というものだった。そのメールを見た源治は、シャワーを浴び、冷蔵庫に残っていたものを適当に食べると、愛用のバイクに乗り本部に向かった。
向かった先には小さなビルがあり、地下にある駐車場にバイクを止めると、髑髏のマスクをかぶりエレベーターに乗る。そして何も書かれていないボタンを押すとエレーベータが動き出した。しばらくの間下に向かえば、エレベーターが止まる。そしてエレベーターから出る、そこは巨大な図書館の様な場所だった。無数の本棚と無数の机そして机に向かって書類を整理する者や本棚で何かを探す者など、人がせわしなく動き続けていた。
エレベータから出た源治は受付に行き受付嬢に話しかける。
「おっさんに呼ばれた、通してくれ」
「総隊長なら隊長室でお待ちです」
受付嬢にどうもと返すと受付を後にし、隊長室に向かう。
隊長室に向かう最中多数の隊員とすれ違ったが、皆源治を見ると表情を曇らせ道を開ける。皆知っているのだ。葛城源治という男が退魔狩りの他に汚れ仕事を行っているというのを。
隊長室の扉を開けると、部屋の奥には壮年の男が居た。顔の傷が歴戦の勇士であることを物語っている。この男こそが退魔部総隊長「兵部荘厳」(ひょうぶそうげん)である。
「言われたとおり来たぞおっさん。また殺しか?」
「・・・儂の前であってもそのマスクは外せなくなったか」
「そんなところだ、最近じゃ夢の中でもドッタンバッタン大騒ぎよ」
「すまんな、お前ばかりに重荷を背負わせて。本来ならこのような仕事は我らが行わなくても良いというのに・・・」
「良いって、俺らも所詮宮仕えだ。上の命令には逆らえんわな」
「その仕事のことだが、上から通達があってな。人員を一人追加するとのことだ。」
「・・・マスクのせいで声が聞こえなかった、もう一回言ってくれ」
「・・・お前の仕事に人員を一人つい」
「ふざけんじゃねえ!俺がどんな思いでこの仕事をやってると思ってる!更年期障害にはまだ早いだろ、寝言言ってんじゃねえ!」
荘厳の言葉が言い終わらないうちに激高した源治が掴みかかる。
「・・・お前、何度か標的の人間を見逃しているだろう」
その一言で源治の手から力が抜け荘厳を放す。
「いい、責めているわけではない。ただお前が任務を全うしていないことに気付いた上が監視役をよこすと言っていたのだ」
「クソッ」
源治が悪態をつくと扉がノックされる。
「ちょうど来たようだな、入れ」
荘厳が答えると扉が開かれる。
そこに立っていたのは紺色のロングヘアーの女性だった。
「ただいま出頭いたしました!本日付で葛城殿とコンビを組ませていただきます岩永亜紀です!!」
源治と亜紀、この二人の出会いが源治を大きく変えていくこととなる。