96 過去からの電話
ツインルームのベッドの上で、トワは目を覚ました。
この辺りで一番高層のホテル、それだけに見晴らしがいい。しばらくボーッとして、それを楽しんでいた。自分の足の下でくるくると電気が移り変るさまは、確かに美しい。
昨晩は修学旅行生が下階で絶え間なく物音を立てていたおかげで、ほとんど眠ることができなかった。そう言った物音が耳にさわって仕方ないのだ。
夜伽を代わってくれるといった、シンヤの好意がもったいないほどだった。
もうそろそろ、シンヤを眠らせてあげないとかわいそうだ。
起き上がろうとベッドの上で寝返りを打つ。ふり返ると、隣のベッドのコトコがいなかった。
気付いていた。つい一時間ほど前に出ていったことには気付いていた。
ただ、そのすぐ後にシンヤの部屋のドアの音が聞こえたので、彼の部屋に行ったのだろう、と思っていた。
時刻は四時半近く。出ていったのはいつのことだったろう。ちょうど眠る前だったから二時半ごろ、もう二時間近くになるか。
何をしているのだろう。まさかということはあるが、シンヤがついている限り大丈夫だろう。自分が彼にそうとう依存していることを自覚する。
トワは起き上がった。シンヤの部屋に行ってみようと思いたった。
その時、ベッドサイドの電話が鳴った。
突然のことに驚いて、彼女は肩を震わせた。薄暗い中、手探りでライトを付け、受話器を取る。
「……はい」
『1025室の天城さまでしょうか?』
フロントからのようだった。
トワは大きく息をついた。
「そうです」
『夜分に失礼致します。お電話が入っておりまして……』
「電話……?」
『防衛庁の川嶋モトキさまからだと言えば分かると』
何故か知らないが、相手はひどくびくびくした声でしゃべった。