94 名前 タケイシ
エレベーターは地下一階について、二人は君国の車に駆け寄った。大きく響く二つの足音がぞっとするほど鋭い。
『は? あの……』
「名前は、川嶋コトコ、小暮ミク、残る男性ひとりはシンヤ、武石シンヤ」
『あの……どう言った……』
「こっちは防衛庁だ! テロリストかも知れないんだ、早く調べてくれ!」
苛立ちを隠さずに、津久田は携帯電話の向こう側に叫んだ。
君国は荒々しくエンジンをかけた。少しだけ文句を言ってから、彼のマーク2.は目覚めた。いつものようにエンジンをなだめることもしないまま、不平を言うアクセルを思いっきり踏みこんだ。
津久田は器用に片手でシートベルトをかけている。
早朝というには早い空は、しかしゆっくりと確実に朝の気配に移っていた。少しだけ窓を開けて空気をとりこめば、冷たい空気がじんわりと体の中に滲みこむ。
『申し訳ありませんが、もう一度お名前のほうを』
「川嶋コトコ、小暮ミク、武石シンヤ」
『えー、その三名での組み合わせのお客様はいらっしゃいませんが、川嶋コトコさまという方でしたら、ご宿泊頂いております』
「連れはいなかったか?」
『お部屋は違いますが、二名様いらっしゃいます。天城トワさまと佐々木シンヤさまです』