93 走り出す!
「どうして通信を突然切った?」
「分かりません。何かトラブルがあったのかも」
「危険があると言っていたな。ホテルの近くのネットカフェだそうだが……まさか」
「こいつは……!」
津久田はディスプレイを見つめて眉をしかめた。彼の秀でた額を、パソコンの青白い光が撫でていた。
居ても立ってもいられなくなって、君国は椅子を蹴るように立ち上がった。
「神奈川県警に通報を……!」
「無茶です! 動いてくれるわけありませんよ」
「拳銃を持っている可能性があると、そう言や、何とかなるだろう!」
「公安のほうが……確実に情報を持ってますから、そっちのほうが……」
「公安じゃ、機動力が足りない!」
「この間の……あの刑事!!」
「あれは警視庁ですよ! 管轄が……」
「あいつならやる!」
妙な確信で君国は断言した。
「シーサイド横浜とか言ったな。ホテルを当たろう。15号線を通ればすぐだ。津久田っ、来い!」
君国は自分のデスクからジャケットを取り出して、そこから車のキーをだした。
その間にログアウトすると、津久田は番号案内に電話をかけた。シーサイド横浜の電話番号を尋ねる。それは横浜郊外の大きなリゾートホテルだった。
薄暗い廊下を駆け抜ける。革靴の裏がびりびりして痛いほどだった。
エレベーターはこの時間ほとんど利用する人間がいないのですぐに到着し、二人を飲みこんだまま地下に運んだ。
『ありがとうございます。シーサイド横浜でございます』
控えめな声が、携帯電話の後ろでじれったくなるほどていねいに言葉を紡いだ。
「津久田と言います。そちらのホテルに、男性ひとり女性二人の三人連れが宿泊していませんでしょうか」
津久田は、ばか丁寧にいっきにまくしたてた。