84 最後の日 午前三時
体を大きく揺すられる。
まぶたにチラチラと小さな光が当たる。
浅いまどろみさえ許してはくれないのか、なんて職場なんだ。
「君国さん、ちょっと、緊急事態。起きて下さい」
まったく緊急事態ではないような声で、呼んでいるのは津久田だ。
他にもここで眠っている連中がいるのだろう、声を押さえて小さく呼んでいる。
「あ、ちょっと。だめですって、起きて下さい。メールです。川嶋コトコから」
君国は体を避けて布団をかぶった。
「あぁ、かわ…………えっ!」
慌てて上半身を起こすと、ごんっ。
案の定、頭がベットの上段にぶつかった。仮眠室のベッドは狭いということを何度か身をもって体験してはいたが、津久田の前で思いっきりやってしまったのは失態だった。
津久田は驚いたような顔をしている。
上段で寝ていたであろう人間が、迷惑そうに身をよせる衣ずれの音がしている。
いっきに目の覚めた君国は、そのまま静かに仮眠室を出ると、よれたワイシャツを引き伸ばして顔をこすった。
廊下はまだ暗い。深夜であることは確かなようだ。
「今、何時だ?」
「三時半です。朝の」
あくびをひとつ。
津久田がやっと覚醒したような顔をして笑った。
「君国さんも寝ぼけるんですね。奥さん、朝、大変ですね」
「……」