83 瓦解の予兆
深夜の病院の前で、武石は途方に暮れた。本当に途方に暮れたと言っていい。
この崩れかけた砂山を目の前にして、自分は今まではたしてどうやって修復してきたのだったろうと、それを思い出そうとしていた。
ただ、この崩れ方はいつもとは違う。
川嶋のファイル、すべての不都合はそれに集中しているのに、それを修復しようとすると他の部分が崩れていってしまう。今まで自分の手のうちにあったものが、次々と独立して離れていってしまう。
早急に手を打たねばなるまい。なるべく早く。完全な瓦解を止められるのは時間と自分だけだ。
あの男に連絡をとらねばなるまい。早く手を打つように、と。
こうなれば、自分で動くしかない。
身の内にあった不遜さが、誇りが、気の狂った連中に足蹴にされる。
いまいましい。まともじゃない。
まったく、馬鹿ばかりだ。
鼻息荒くそれだけを考えて、武石は自分の車に乗りこんだ。
鈴見の身分証を調達せねばならない。
それに電話。どこに居るか分かっている。
他のことを考える時間もなかった。