81 苛立ちと残酷な予言
キョウは静かに言った。
『わたしは、組織を抜けます』
「……何だって?」
『中埜貿易はつぶれる』
はっきりと。
それは不吉な予言のように、武石の心の中にずっしりと響いた。
キョウは厳かに繰り返した。
『あなたの作り上げた組織はつぶれます。多分、川嶋の亡霊がつぶすでしょう』
君国は自分の後ろにある建物を見あげた。
けばけばしく目に痛いほど白い病院。ここの集中治療室に、今、鈴見がいる。
鈴見には国籍がない。戸籍も存在しない。病院にいるということは何らかの身分証明が必要なのであって、これから武石はその確保のためにひと仕事しなければならない。
鈴見を痛めつけた時点で武石に対しての警告はすんだはずなのに、わざわざ公共の病院に彼を収容させるなど、完全に武石に対する嫌がらせにほかならない。彼が表面上見せているどの言葉より苛立っていることは、これだけでも知れる。
苛立つのはこっちのほうだ。
そのうえ、予言のように力を持った言葉。
「抜けるなんてことができると思っているのか?」
『あなたに追う力がありますか? トワとコトコを追う手を休めない上に、私を追うことなど。組織にはもうそれだけの力はないはずだ。それに私はトワのようにトウキョウに留まるようなことはしません』
「……」
『必要なのは臆病さだ。逃げることに早ければ、生き残ることができる。大義も信念も、人間を生かしてはくれない。そう教えてくれたのはあなたでしょう?』
「……その恩を忘れるというのか?」
『それだ』
心底おかしそうにキョウは言った。