78 失われた背中 望愁
多少失望している自分を感じる。追うのをやめてしまったことで、失望している。ブレーキをかけてしまったことを後悔している。
隣で津久田は監視センターに電話をかけていた。
小暮ミクと川嶋コトコは一緒にいる。少なくとも、川嶋コトコはこの逃走劇に何の疑問も感じてはいないようだった。事情を知っているのだろうか? だとしたらどこまで? 自分の兄のことも?
彼女は君国の顔を見た。覚えていたのだろうか。津久田は何度か会っているようだが、君国は三年前に一度、川嶋の葬式でしか彼女に会ったことはない。
彼女が、川嶋と藤堂に続く、三番目のファイルの所有者なのだろうか。
過度に速度をおとして、今度は制限時速を下回るスピードで、車は狭い道を進んだ。対向車がないために広く感じる。
津久田が顔を上げた。携帯を耳に当てている。
「君国さん、あの車、桜田通りを品川方面に向かって南下中だそうです」
「あ? あぁ……」
彼は上の空で言った。いつの間にかアクセルを踏む足が宙を舞っている。ブレーキの上に乗りかけている。
「大丈夫ですか? 運転、きつかったですね」
津久田が気づかって言った。
君国はほとんど聞いてはいなかった。二人の女の関係が気になっていた。