77 ランドクルーザーの背中
川嶋コトコ。
小暮ミクの隣に座っているあの女が、川嶋が死んだ時高校生だったあの少女。旅行に行くと言ったまま失踪した少女。
彼女なのか……?
「でも、どうして小暮ミクと一緒に……川嶋を殺した犯人なのに」
三年前の事件は、やはり小暮ミクが犯人ではないのか? あるいは、川嶋コトコは小暮ミクに復讐しようと思って彼女に近付いているのか?
少しずつ、二台の距離が開いてきた。引き離されているのはもちろん君国のマーク2だ。
元々、それほど運転に自信があるわけではない。公務員が警察に捕まることはマスコミに大きくバッシングされるため、スピード違反すらしたことがなかった。速度計の右半分は君国にとってまったく無関係で無駄な領域だった、昨日までは。
六十キロオーバーで右折し、細い道に入る。そこからランドクルーザーはさらにスピードを上げた。
君国も後を追う。曲がる時に失速し損ねて、車が歩道に乗り上げた。がくんと大きく揺れる。
「もう危ないですよ! 交通監視センターに誘導してもらったほうが、効率がいい」
津久田が、大きな声で言った。これまでの運転も、かなり怖かったのだろう。そこにこの狭い道、恐ろしさも極まれりといった表情をしている。
やっと君国はブレーキを踏んだ。制限速度の二倍ほど出してはいたが、それでも遅く感じる。
ランドクルーザーはまったくこちらに構うこともなしに道路の奥へと飛ばして、消えた。小暮ミクも、川嶋コトコも、運転が達者なもうひとりの男も、テールランプの跡だけ残して夜の夕闇の中に吸いこまれていってしまった。
タイヤの軋む音が耳に残る。