表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/120

72 車上の人

 何組か人が、店に入ってきた。

 ほとんどが見なりの良い紳士淑女に分類される人間で、あまり見なりのよくはない私達をまるで異形のものでも見るかのようにじろじろとのぞき見ていった。

 結局、私達はケーキを食べるだけで精一杯で、シンヤだけがしきりに辛いものを欲しがっていた。彼はもう何杯もコーヒーをお代わりしている。

「あぁ、もう、一年分はケーキを食べたわね」

 その目の前で飄々とケーキをたいらげたトワが笑って言った。

「私は今からケーキの海に浸かったって平気」

 それを想像して私は心底気持ちが悪くなった。

 トワはそれを見て笑っている。

「そろそろ出なきゃ。次のお客さんが入る時間だから」

「マスターに感謝しなくちゃね。こんなに騒がせてもらって」

 私達は勘定を済ませると、そのまま店を出た。夕刻を過ぎて暗くなっている。

 路上駐車した車のドアに近付いて、トワがにっこりと笑った。

「ありがと、シンヤ。嬉しい」

「ごちそうさま」

「どういたしまして。このまま豪華リゾートホテルへ直行よ。今夜はふかふかのベッドで眠れるからね」

 冷たい秋の風がしのんでくる。辺りは静かで、一本向こうの大通りの喧騒が耳に心地いい。

 夜になればなったで、その店はイルミネーションもつけず、完全に普通の民家と一体化していた。秋の虫の声もコンクリートとアスファルトのほんのすき間から聞こえてきて、その趣を添えていた。

 私達はまた車上の人となる。今度もハンドルはシンヤがとった。

 低く滑らかなエンジン音をさせて、車は滑りだした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
http://nnr2.netnovel.org/rank01/ranklink.cgi?id=koguro
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ