67 頬を寄せる ケーキを囲んで
「お誕生日おめでとう、トワ。まだ誕生日はだいぶ先だけど、今年はこんな感じだから24日にパーティーできるとは限らないでしょう? だから、ここで前祝いってことで、ね? 大変だったのよぉ、ここの予約をとるの。結局、無理を言って6時半の予約の人の前に入れてもらったの。だから一時間しかないのよ。制限時間付き。素早くたっぷり食べましょう。このケーキも、無理言って作ってもらったんだから残しちゃだめよ」
あっけにとられた顔つきのトワ。私だって同じだ。
一昨日街中で銃を向け合っていた人間が、こんな時に誕生日パーティー。
それが人間の力かも知れない。近親者が死んだ葬式の日にだって、談笑することができる存在なのだから。
「さ、さ、ろうそくを吹き消すのよ。いっきにね。お約束じゃないの」
そう言うと、シンヤはケーキをトワのほうによせた。
薄暗い店内に、ろうそくの炎に照らされたトワの顔が浮かび上がっていた。彼女の頬は少し赤みを帯びていて、嬉しそうだ。
狭い空間にかかっている音楽が耳にこぼれ落ちて、くるくると踊るように響く。
ここでシンヤが「ハッピーバースデートゥーユー」なんて歌いだしたら、私はどうすればいいんだろうと考えていたが、さいわいそんな方向に流れることもなく、トワがろうそくを吹き消した。
私もシンヤも拍手をした。
いつの間にかマスターはカウンターの中に引っ込んでしまって、コーヒーを入れる準備をしている。ろうそくの残り香にコーヒーの香りが重なって、甘く匂った。