66 ハッピーバースデー!
予想に反して、その中はテーブルの四つだけ並んだ小さな店だった。電気は赤く薄暗く、静かな音楽が流れ、小さな木の椅子が並んでいる。
先にシンヤがその一番奥に座っていた。こちらを手招きしている。
「こっちこっちぃ。トワはそっち、コトコは私の隣よ。マスター! お願い」
シンヤはどこにいるのか分からない店員に向かって大きな声をかけた。
トワは疑問形の瞳をしてはいるが、にこにこと楽しそうに椅子に座る。私は疑問を前面に出してシンヤの隣の席に着いた。
ここで単に夕食をとる可能性も考えられた。ホテルよりはここのほうが目立たないだろうから。
「ねぇ、何があるの? シンヤ」
「すぐ来るから、もうちょっと待ってなさいって。……あ、ほら」
この店のマスターとおぼしき人物が、カウンターから出てきた。
その手には、大きな白い物体。
「ケーキ?」
それは巨大なショートケーキだった。丸のまま無造作に塗りたくられたクリームの上に、この時期珍しい苺がのっている。
そうして驚いたことに、ケーキの上には何本ものろうそくが、まるでそれが自分の一世一代の仕事であることを理解しているかのような分別臭さで立っていた。
「なに? え、もしかして……」
「ハッピーバースデー、トワ!」
シンヤはことさら大きく言った。マスターは笑みを含んで、ケーキを机に届けた。
そうだ、知っている。トワの誕生日は10月24日だった。まだ十日以上あるが、シンヤは気をきかせてこの時を選んだのだろう。