65 寄り道
「ね? 警察も張ってないでしょ?」
気持ちよさそうに秋の風を全面で受けて、余裕の表情でシンヤは言った。
確かに張ってはいないが、いずれ追ってくるだろう。
「シンヤ、どこに行くの?」
トワが尋ねた。
「すぐそこよ。すぐそこ」
「何するの?」
「それはお楽しみ」
秋の夕暮れは早い。光も何だか温い。
これから混み合うであろう道路は、今は完全にシンヤの独壇場だった。
そのまま大通りを東に向かい、何度か交差点を曲がる。
細い道に入ってすぐのところでシンヤは車を止めた。路上駐車ではあったが、近辺には車が多くあまり気にならない。
「さ、降りた降りた。ここを予約するのに手間取ったのよ」
今度も強引に私達を降ろす。
見回してももちろんホテルはない。住宅地だ。
そのうちの一軒にシンヤは入っていった。庭のない、白と茶色の古風な造りの家だ。
私はトワに顔を近付けて、
「誰の家、ここ?」
「知らないわ」
トワは首を振った。
「トワ、銃って持っている?」
「持ってない。何で? 必要かしら?」
トワは、シンヤが吸いこまれていったドアを開けた。穏やかな光がこぼれて、トワの頬に差す。