63 見覚えのあるランドクルーザーと真実
「……ファイル?」
津久田が呟いた。
男が掴んでいるものについてだ。確かにそう見えないことはないが、君国には断定はできなかった。
男は早足で歩くと、自分の車に乗りこんだ。君国にはむしろその車のほうが気にかかる。
「ランドクルーザー」
エンジン音は低く、よく聞けば改造してあることが分かる。
車はすぐに駐車場を出て行った。それは飛び出すようなスピードだった。
「……あの男、このアパートから出て行ったか?」
「え? はい、ええ、多分そうです」
ようやく愚鈍なエレベーターが二人の前に口を開け、君国は急いで乗りこんだ。
「もしかして、窓から出て行ったのか? いや、まさか……」
「え? 君国さん、あの部屋を荒らした奴だとかって考えてるんですか?」
「今、俺達が入ってくるまで、あの部屋に居たのかも知れん。だから窓が……」
「そんな、だってあの部屋、昨日今日荒らしたって感じじゃ……」
「小暮ミクと同居していたと考えられる男。あいつがファイルを取りに来たのかも知れん」
「だって、ランドクルーザーって、昨日、彼女の銃を撃った人間を狙撃した人間が乗っていた車でしょう? 同居してた協力者が、そんなことをするはずがないじゃないですか」
「あの銃を使っていたからといって、小暮ミクとは限らない。三年前の事件も、あるいは……」
「川嶋を殺したのは、小暮ミクじゃなかった……?」
「死んだ川嶋の横に居たのが小暮ミクだったという、目撃証言だけだからな」
エレベーターが最下階につくと、二人は駐車場に飛び出した。すれ違った何人かの人間が異様な顔でこちらを見ていた。
もちろんとうにランドクルーザーはどこかに去ってしまったが、君国は自分の車に乗りこむとエンジンをかけた。
「交通監視センターへ行く。この近くの交差点を通っていれば、どこかの監視カメラに写っているはずだ」
「分かりました」
素早く助手席に乗りこんで、津久田もシートベルトをつけた。
こういう時に警察だったら良かったのにと思う。警察ならば、サイレンを鳴らしてすべての職権を行使して駆け込むことができる。防衛庁の面々にその権利はない。
二人を乗せた車は、大通りに向かって住宅街のすき間を駆け抜けた。