62 追いかけっこの連鎖
君国は津久田を促して廊下に出た。戸をゆっくりと閉めて、怪しまれないようにエレベーターホールに立つ。
津久田にことわって、君国は内ポケットの煙草に手を伸ばした。
高所なので風がかなり強い。ひとつしかないエレベータは下りに使用されていて、二人はそこでしばらく待った。どちらも階段で降りようなどとは言いださなかった。
「私達の前で、もうひとつ追いかけっこが始まっているみたいですね」
津久田は廊下から駐車場を見下ろして言った。
「小暮ミクを追いかける中埜貿易。だとしたら、彼女はファイルを持っているんでしょうかね」
「さぁな。だが、ついこの前まで持っていたことは確かだ。多分あの日、彼女は藤堂と会えたんだ」
「じゃぁ、どうして公表しないんでしょう。私の考えたように、自分の犯罪記録が残っているからかな?」
「だとしたら、その部分だけ処分すればいいだけだ。最悪のことを考えれば、彼女、今も本当に中埜貿易の工作員かも知れないぞ。だから公表しないのかも知れん」
「だとしたら、これだけ部屋を荒らしたのは誰なんです? 自分で荒らしたんですか?」
そこまで言って、津久田はふと身をのりだした。
「あれ、今エレベータに乗っていたのは……あの男でしょうか?」
君国も煙草をふかしながら、下の駐車場を見下ろした。
「悪いが、目が悪い」
しかし、薄ぼんやりと映ったのは、ティーシャツ姿に綿のズボンをはいた大柄な男だった。何かを掴んで大股で車のほうに向かっている。