61 荒れた部屋
人の気配がしてふり返って見ると、津久田が唖然としたように立っていた。
「あぁ、これはひどいですね。窓が……」
「誰かが荒らしたようだな。それとも、必要なものだけ持って、窓から急いで逃げたか」
「クレジットカードでも盗まれたかな」
「あるいはファイルとか」
津久田はうなづいた。
「机の上に食べ残したものらしい煮物が置いてありました。あれは、もう二、三日経ってますね。少し前に出て行ったようです。物の処理もせずに」
「男が一緒にいたようだな。協力者だろうか」
「そうですね。身分を表すものがなにもない。この部屋の住人であるトワとかいう女が、やっぱり小暮ミクだったんですね。何かあって、慌てて逃げ出したんだ」
「多分、昨日の事件と関わりがあるだろうな」
「ファイルは、彼女が持っているんでしょうかね?」
「この荒らされかたを見ると、そういう感じだな。誰か、追手がファイルを探してここを荒らしたのかも知れないが」
「だとしたら、追手は間違いなく中埜貿易だ」
はっきりと言ってのけてから、津久田はキッチンのほうも同じ有様だと語った。
「冷蔵庫まで調べてあるんですよ。凄じい念の入れ方だ」