59 テリトリーの扉
インターフォンを押してはみたが反応がない。この昼間だ、当然といえば当然のこと。
二人はマンションの玄関ロビーにも入れない状態で立ち往生した。
しかし、入ろうと思えば入れるものである。
管理人に開けてもらおうとするほど、天城トワという住人が何か起こしたというわけではない。彼女はただ、一週間前に消費者ローンで金を借り、昨日カードの盗難届けを出しただけなのである。翌日には金利なしで金は返してあったし、まったく法に抵触することはしていなかった。
なるべく穏便に。
二人は他の住人がマンションに入ってゆく時、さりげなく後ろからついていってロビーに入った。そうしてエレベータで最上階から二番目の階に降り立った。
「なんか……いいとこに住んでますね」
「でも、2DKだそうだ」
ひとつの階に六つずつ部屋が入っているようだった。廊下は思ったほど狭くなく、部屋数のわりに長い。2DKにしては、広い住宅のようだった。
彼女の部屋の前まで来ると、もう一度改めて、玄関脇にあるインターフォンを押した。反応はなかった。
「だめですね。昼間ですから。働きに行っているのか買い物に行っているのか、どのみち待たなくちゃならない」
「そうだな」
君国は静かに言った。
マンションの他の部屋からも気配がない。ここはそういう世帯が入っているマンションなのだろう。昼間は閑静で誰もいない。
「いったん引き上げましょうか?」
君国はうなづいた。