57 銀行行脚
区内のホテルや宿泊施設を当たってはいるが、結果ははかばかしくない。もちろん偽名で泊まっているからだろうが、それらしい人間を見ない。
だとすれば、月極めのマンションやアパートだろうと予想された。月極めなら、藤堂が死んで一週間の今もどこか近くにいるかも知れない。
ただそういった賃貸マンションの場合も、まったく知らないところに大金を置いておくことはないのではと考えた。ある程度以上になると、持ち歩くにも煩わしい。すなわち、銀行やカード会社、そういった金融機関に預けてあると考えたのである。後始末屋に払ったのは数十万円、銀行からおろすには微妙な金額だ。
偽名偽身分であることは当然。川嶋コトコのカードもそうやってできていた。提示する身分証をたった一枚偽造してあれば、それくらいは簡単なことである。
ただ、どこかしらから数十万の金を引き落とした履歴は残る。それも10月4日以前だと分かっている。
「でも、そりゃやっぱり無理ですよ。あっちは信用を売り物にしているんですからね。私達がこの事件を公表して、どこどこの銀行から個人情報の手がかりを得たなんてことが報道されたら、その銀行の責任問題です」
「俺達は自分の進退かけてやってるのに」
「進退かかってない人間に、同じことは期待できませんよ」
飽くまでたんたんと津久田は言った。
「銀行より、コンビニか消費者金融のATMを調べたほうがいいと思います。藤堂が殺されたのは、多分、計画的にではなく何らかのトラブルがあったものだと考えられます。でなければ死体の始末は自分でやったでしょうし、流しの始末屋に頼むなんてことはなかったでしょう。だとしたら、藤堂の死亡推定時刻から考えて真夜中です。どこかから突発的に金を持ってくるにせよ、銀行なんか、開いてませんよ。二十四時間やっているところじゃなくちゃ」
「あぁ、そうか」
君国はこの頭のまわる若い相棒を見た。
「そういうところはけっこう簡単にカードができる。しかも、こんなヤバいことに使ったんだとしたら、関わったらすぐに解約しただろう。あるいは盗難届けか」