56 調査の顛末
日本にもプライバシーという言葉が浸透している。
誰が叫んだのか知らないが、まるで世界で一番大切なことのように繰り返されて、その定義自体は曖昧なものとなって、初めの目的から切り離されてところで手法だけが形骸化し取り残される。それが常識というもののレシピだ。
当然のことながら、令状も持たない二人組に銀行は非協力的で、君国と津久田は何時間もたらい回しにされた挙げ句、結局、協力はしかねるという内容の至極ていねいな挨拶と共に、強制的に銀行から退去させられた。
後始末屋はすぐに見つかった。
彼は、かなり高額の現金でこの仕事を請け負ったと吐いた。
依頼に来たのは以前から知った顔ではなく、初めて会った女で、ヤクザがらみではないことを保証したうえ、即金で数十万を置いていったため、彼は即座に承諾。夜のうちに動くようにという指示と、遺体を行方不明にはしないで欲しいという要望に応えて、その日のうちに放置車両の中に遺体を押し込んだ。
立派な死体遺棄だったが、自分たちは逮捕権に関しては一般人と同じで、現行犯以外はできない。自首しろと言い残してはきたが、彼はしないだろう。
君国がプリントアウトした小暮ミクと川嶋コトコの写真を見せると、男は小暮ミクのほうを指した。
「この女です。えぇ、綺麗な顔の女だった」
君国と津久田は早速その足で銀行に行ったのだが、あしらいは初めの通り。結局、預金者の名簿と、今月4日の預金引き落とし記録は見せてはもらえなかった。