55 不気味な極上の笑み
「信用談議ですか?」
鈴見はパソコンのほうに目を向けて言った。
キョウは相変わらず、自分以外が仕入れてきた情報には耳を貸さない。鈴見の情報でさえ、必ず一度は自分の手で確かめる。
そのための信用談議だと思った。
キョウはまた小さく笑った。
「そうだよ。他にもあげよう。信号が赤になれば皆が止まるという信用、本の活字はいつも同じ順番に並んでいるという信用、自分がいない時でも部屋は同じ形を保っているという信用、波は完全に凪ぐことがないという信用、自分の手は自分の思う通りに動くという信用、飼い犬は自分の手を噛まないという信用」
最後の言葉に、鈴見は一瞬背筋が凍った。
しかし、何食わぬ顔をしてキーボードをたたき続ける。
「最初に言ったね。僕はそんなものは信じてはいない」
キョウは真っ直ぐに鈴見のほうを見ていた。
「君はファイルを誰が持っているのか知っているんじゃないのかな。そのファイルを持っている人間もまた、組織の指示で動いているんじゃないか?」
鈴見は顔を上げることができなかった。
彼の声は静かで、背筋を凍らせる。この瞬間に凍死者が出ても、鈴見は納得しただろう。
しかし、自分は凍死したくない。
いつの間にか手を止め、鈴見は下から伺うようにキョウを見ていた。
彼は笑っていた。
「今日の昼。武石さんに携帯で連絡をとっていたね。何を話したか聞いてもいいかな?」
それは極上の笑顔。