51 三年前の足跡
これが刑事のやりかたなのだろうか。
君国は急に煙草を吸いたくなってポケットを探した。
「……ご存じでしたか」
「一応、あの事件もうちの管轄だから、捜査本部も設置してあるし。それだけじゃない……」
そこで刑事はいったん言葉を切った。
君国はといえば、さいわい、曲がった煙草が一本ポケットから出てきて、それに火をつけることができた。
「本当に偶然だったんだが、今日あのビルで鑑識捜査中、大量の血液反応が出た。血痕の主とは違う、誰か別の人間のものだ」
「って……いや、それは……どういうことですか?」
「壁の端に奇跡的に酸化した血液の一片が残っていて、それを鑑識班にまわしたところ、AB型Rhマイナス、君の同僚の藤堂という男と同じ血液型だった。詳しいことは検査待ちだが、発見現場から近隣ということも考えてまず間違いないだろう。AB型Rhマイナスなんてのは稀少型だから、そうそう転がっちゃいない」
「つまり、あそこは藤堂の殺害現場……?」
「だから、あんた達はあそこに来たんじゃないのか?」
コーヒーを入れる準備をしていた津久田が、会話の内容に気付いてこちらに近付いてきた。君国はまだ長いたばこを消した。
「いや、私達はあのビルで事件があったと聞いて偶然に……」
「それともうひとつ、俺があんたに電話したのは、三年前の事件のことだ」
「三年前って……」
「川嶋モトキ。こっちも防衛庁の人間だったそうじゃないか」
「……! 私の元部下です。何かご存じなんですね?」
「壁にめりこんでた一発目の弾丸。かなり形状が変化していてくせ者だったんだが、あれの経口と線条痕が、三年前川嶋モトキの体から出てきた弾丸のものとほぼ一致した。同じ銃だという可能性が高い」