49 表面上穏やかな感触 眠り
彼はどこに隠した?
時間的にはどこでも可能だ。彼は自由に行動できる。
しかし、中埜貿易には渡ってはいない。彼らが家捜ししたのが証拠に。
これだけの動きがあって、彼が動かないはずがない。
多分、どこかに……
ひとりで、静まったコンクリートの床に背をつける。まったくの無防備だ。
拳銃も持っていない。ナイフも、何も。
それでもこれがこの国の日常だということを思い出そうと、私はしばらくの間目をつむった。
私の左手が覚えている感触は、痛いほどはっきりとしている。あの重い物体を持ち上げ、照星を合わせる時の感覚は、静かで痛い。
忘れれば、表面上穏やかな日々が戻ってくる。
でも多分、忘れられない。
知ったものを捨て去ることは、知ることよりもずっと簡単だ。
しかし、それがなかったことだと自分に思い込ませるには、まだ時間が足りなかった。
私の左手は冷たい床をまさぐる。
穏やかな風が、昼時の温かな香りを運んでくる。
まるで感触だけが体から独立して、世界中にとけてしまったように感じた。
自分が抱えていたと信じていたものが、今度は重荷となって私の意識を霧散させていく。
眠い。
多分、今度は夢を見ない。
眠い。