46 猫たちの櫓
トウキョウ郊外の耕作地に囲まれた古めかしい住宅街に、工事途中で無防備に放り出されたビルが、新しい住居だった。
周りを塀で取り囲まれていること、不法に駐車されたり投棄されたりする車が多くランドクルーザーが目立たないこと、動物が多く(主に猫だったが)侵入者に敏感に反応すること、出入り口が複数ありそのうちの幾つかはまったく人目につかないで外に出られること、などが大きな選別理由だった。
「それほど長く私達だけに網を張っていられるほど、彼らも暇じゃないわ。何日かしたらホテルに移りましょ」
シンヤは元気よくそう言った。彼は本当にエネルギッシュで、思考型のトワとあまり喋らなくなった私の分まで明るい。
「だいたい、お風呂もないじゃないのぉ。布団もないし、車の中で寝たほうがましだわ」
それでも彼は、夜までに「まともな」物が食べられるようにすると言って、一台しかない車に乗って午後にはどこかへ出かけて行った。彼のことだ、今後のことについて何か考えでもあるのだろう。
トワは車に乗っていた地図を頼りに、ひとしきり辺りを散策して、この辺りの地理をはっきり頭にたたき込んでいるようだった。
私は自分の拳銃をトワに預けていた。本当ならば手放したくはなかったのだけれど、まだ記憶が混乱しているはずの人間がそれを手放さないとなると、いくらなんでもトワもシンヤも私が記憶を取り戻したことに気付くだろうと思ったからだ。
トワもシンヤも、私がどこから来たのか知っている様子だった。
多分、それはあの日から。
新橋のビルで私と会った瞬間に、トワは悟ったのだろう。
そして私も思いだす。