44 それでも私はあなたが好きです
暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い階段。
どこまでも際限がない。
きっと忘れたいと思って、誰かがぱちんと電気を消したんだ。
晴れの夜の空の果てのような、大きな空間。
果てがない。
地平線があっても、その先は無限ではないかと思えてしまう。
どこかから聞き慣れた音が大きく響いてくる。
ふと気がつく、触感がない。
誰とも手をつなげない。
私はここにいる?
ここにいるの。
誰か、私はここにいます。
誰か。
『知ってるよ』
どこかから声がする。
『君のことは知っている』
私のことを知っている?
私はそれで少し安心する。
この人は私のことをよく知っている。私が道に迷った時も助けてくれる。
抱きつきたくなるような脱力感。
安堵。
声は言う。
『君がどこから来たのか。何故、僕に近付いたのか。僕はすべて知っている』
瞬間、心が凍る。
暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い……
違う、私は叫ぶ。
違うの、違う。
私はあなたが好きです。
あなたのことがこんなにも好きなのに。
『僕は行くよ』
だめ、行ってはだめ。
私はあなたのことをすべて話してしまった。
あなたが大切にしているもののこともすべて。
全部話してしまったのだから。
行かないで。
私はあなたのことがこんなにも好きなのに。
『僕は行くよ』
私はあなたのことがこんなにも好きなのに。
『君は逃げるんだ』
私はあなたのことがこんなにも好きなのに。
闇の密度が濃くなる。
私は闇にひざまずく。
頭をたれる。
懺悔のように唇から言葉がこぼれる。
私はあなたが好きです。
私はあなたが好きです。
私はあなたのことがこんなにも好きです。
でも、
私はあなたを殺さなくてはいけない。
あなたがもし行けば、私はあなたを殺さなくてはならない。
私は自分を守るために。
それは、初めから決まっていたことだから。
あなたはそれを知っていて、そこヘ行く。
いつの間にか皮膚感覚が戻っている。
掌に涙の感触。冷たい。
冷徹。
でも、
それでも私は、
私はあなたが好きです。