表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/120

43 あのビルを踏む


 津久田は惚けたような表情で彼を見送り、そうして呟いた。

「このビルって……ですよね」

 あくびをしていたのと同じ人物の声とは思えないほどの低く澄んだ声。

 三年前、川嶋モトキが殺されたビル。

 彼が殺害された時、ここは怪しげな漢方薬の店だった。店を経営している情報屋に接触しようとして、彼はここに来、そして撃たれて死んだ。

 情報屋は後から入って来て、殺された川嶋とその脇にうずくまる小暮ミクを見た。

 今はここには何もない。

 だが、まだ完全に記憶から拭い去られてはいない傷跡が、こうして生々しく残っている。三年も経ってもまだ消えてはいないのだ。

「まさか、小暮ミクではないとは思うがな」

「弾丸が見つかっているなら、その線条痕を調べれば何か分かるかも知れないですよ。それに、血痕も残っています」

「今日中にでも分かるだろう」

「彼、ほんとに連絡を入れてくれるんでしょうかね?」

「さぁな」

 君国は伸びをした。

 出勤前だというのにスーツはもうすでによれている。

 ここ数日、時間外就業が増えている。それも、自ら進んでやっている、完全に仕事とは独立した金にならない作業だ。津久田には悪いが、しかし君国はこれをやめるつもりはなかった。

 川嶋と中埜貿易をめぐってことを起こす限り、必ずその接点であるトウキョウに足跡が残る。それをたどっていくのは不自由なことだが、追い越すことはできないまでもいつかは必ず追いつく。それを求めていた。

 もし川嶋のファイルが見つかったら、自分はそれを「大きな力」に預けるだろう。例えそれが川嶋モトキの本来の遺志とは違ったものであっても、きっとそれが正常なことだと信じたいと考えるだろう。

「早く出勤しないと、またうちの大ボスになんか文句言われますよ」

「分かってるよ」

 そう言えば、あの刑事の連絡先は聞いてはいなかったと思いながら、君国はまだ大勢の警官が残るビルの階段を下りていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
http://nnr2.netnovel.org/rank01/ranklink.cgi?id=koguro
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ