42 疑心を抱いた刑事の去る
それをひとつ吐き出すまで待って、君国は言葉を次いだ。
「この事件の経過を、逐次知らせて欲しいんですが」
「誰に?」
「私にです」
「あんたに? ……ここに来たのは公務じゃないのか?」
「非公式です。だから、連絡も非公式に」
曖昧にそう言うと、刑事は呆れたような顔をしてこちらを見た。
ひとしきり煙草をくわえて思案すると、
「報告できないことは、報告しない。それでもいいんなら、上司に報告した次にあんたのところに連絡を入れる。ただ、内容はひどく一般的なものになるよ」
「けっこうです。なるべく早く、確かな情報を手に入れたいのです」
「名刺を」
君国はほとんど今までのところ用をなしたことのない名刺を取り出して、しわを十分伸ばして彼に手渡した。
刑事はそれを見ると、眉をよせた。
「国内安全部……」
それ以上は何も言わなかったが、ひどく複雑な顔をして彼は名刺を胸ポケットにしまった。
自分も逆の立場だったらそういう顔をしていただろう。この国の「大きな力」がを見せつけられるからだ。しかし、この場で刑事の話を聞きだせたのもまた「大きな力」の作用だった。
津久田のほうを見ると、彼はこの刑事との交渉役をすべて君国に頼りきった方向で立ちつくしていた。直接交渉は自分には向いていないと言いたげだ。
「戴いとくよ」
刑事は胸もとをぱんとたたくと、背を向けて立ち去った。